閃光の傷跡
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ひとりとして、あるいはもっと現実的な思考の持ち主たちにも、このいささか甘過ぎるとも思える処置が取られた真相を突きとめ得た者はいなかった。
「難しいものだな、フロイライン」
ある休息の時間、紅茶の芳香を楽しみながら、ラインハルトは言った。
「人はみな光にあこがれ、光に目を向けたがる。強い光に目がくらめば大半の者は目が覚めるが、わずかでも才ある者は自分も光になったと思い込む。あるいは目をくらませた光に追いつき追い越そうと走る。自分がどれだけ息が続くかということも考えずに。だが元より光を見ようともせぬ者には成長も大成も決してありえぬ。…今度の戦いはいささか、考えさせられた」
ヒルダはらしくもなく、ラインハルトが疲れた表情をしているのを見た。
「それが、トゥルナイゼン提督を軽い処分でお済ませになる理由なのですね」
「そうだフロイライン。ケンプを失った時、気付くべきだった。敵であれ味方であれ、強い光に目を焼かれた者はその光を追って止まない、ということをな」
自嘲の意味を込めてか、ラインハルトは軽く笑った。
「私自身、ヤン・ウェンリーの光に目を焼かれていたのだ。そうであればこそ、一対一で雌雄を決するという発想に思い至った。トゥルナイゼンを咎めることはできぬ」
ラインハルトの追憶を、ヒルダは黙って聞いていた。
私情としては、今さらと思う心がないでもない。だが公人としては、歓迎すべきことだった。動乱と再建の時代はいずれ過ぎ去る。いや過ぎ去ろうとしている。その時ラインハルトが目を焼いた光を追い続けてやまぬままであれば、帝国軍は幾億の屍を積み重ねることになるのか想像もつかない。ヤン・ウェンリーが生きている間はいい。対等でなくなるとしても、手ごわい敵手としてあり続けるうちは。だがヤンとて不死の存在ではない。もしヤンがラインハルトより早く死ぬようなことがあれば、ラインハルトは味方のうちに敵を求めるのではあるまいか…。そしてそれに付け込もうとする輩がいれば、流血と怨嗟の声は止まるところを知らぬだろう。
恐るべき想像に、ヒルダは背筋を氷塊が滑り降りるのを感じた。
「盲いることなければ、いずれ光に焼かれた目も癒える。そういう男は貴重だ。傷が癒え、目が覚めてなお覇気を失わぬのであれば、才に劣っていても時間と経験によって補い得るだろう。後に続く者たちのためにも、死なせたくない…」
ヒルダは何も言わなかった。
今この瞬間に少年期を脱しつつある眼前の覇者に、その機会を逸させることを恐れたのだ。
「艦隊の再編が済み次第、フェザーン外縁星系の警備司令官に転任させる。経験を積んで一千光年を見通す目を備えるに至れば、今の私の階位に並ぶこともあろう」
そこまで言うと、ラインハルトは軽く笑った。
その笑いがヒルダにはラインハルトが自身
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