暁 〜小説投稿サイト〜
至誠一貫
第一部
第四章 〜魏郡太守篇〜
四十八 〜郷挙里選〜
[2/7]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
論は、白熱していく。
「ふふ、本当に皆さん、頼もしいですね」
「ああ」
 武田観柳斎の如き似非軍師ではどうにもならぬが、今目の前に居るのは歴史に名を残した名軍師ばかり。
 如何に宦官どもが狡知に長けていようとも、この顔触れがいれば案ずる事もあるまい。


 未明になり、月らを城門まで見送った。
 軍勢は昨日のうちに、恋と霞らが、郡内の巡検に出向く愛紗の手勢に紛れて出発させてあった。
 ここ数日、疾風(徐晃)の手の者から、不審者を捕らえたという報告が屡々上がっている。
 己らの権力争いに汲々とする連中に、そこまで気が回るとも思えぬが、用心に越した事はあるまい。
「月」
「はい」
「これを持っていけ」
 私は、贋作の堀川国広を手渡した。
「お父様、宜しいのですか?」
「構わぬ。それは贋作ではあるが、紛れもなき我が愛刀であったものだ。守りとして、持つが良い」
「……わかりました。この剣、お父様だと思い、大切にします」
「うむ。……閃華(華雄)」
「何でしょうか、歳三様」
 閃華は、言葉遣いが以前と変わった。
 月を主として敬意を現すようになり、その父となった私にも、同様に接するようになっていた。
 言葉だけではなく、短慮は影を潜め、冷静に戦場を見るようになった……とは、同僚である霞の評。
 真名を与えられた、という切欠があったとは申せ、まるで別人であるかのような変貌ぶりだ。
「月が、これを抜くような事にならぬよう、頼んだぞ」
「お任せを。例えこの身に代えようとも、月様はお守り致します」
「うむ。だが、くれぐれも命を粗末にするでない。武人たるもの、命を賭けて戦うのは当然だが、使いどころを見誤ってはならぬ」
「そうですよ、閃嘩さん。あなたは、私にとって掛け替えのない方の一人なのですから」
「歳三様、月様……。お気遣い、ありがとうございます。お言葉、肝に銘じます」
 迷いのない、いい眼をしている。
 愛紗と斬り結ぶ事は万が一にもあるまいが、今の閃嘩ならば、両者とも拮抗した勝負になるやも知れぬな。
 ……無論、そうさせる気は微塵もないが、な。
「詠、手に負えぬ事態ならば、直ちに知らせよ。決して、一人で抱え込むような真似は止すのだ」
「わ、わかってるわよ。稟や風にも釘を刺されたけど……ボクって、そんな風に見える?」
「お前は、月に対する責任感が強過ぎる。自覚してない筈はあるまい?」
「……そう言われると、返す言葉がないわね。でも、今の月はアンタっていう、頼れる存在があるからね。ボクも、それは頭に入れているから」
「殿。そろそろ発たぬと、人目につきますぞ?」
 途中まで、月らの警護に当たる彩(張コウ)に促され、一行は城門を出た。
「では、行って参ります。お父様」
「息災でな」
 月は、何度も何度も
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ