第三章:蒼天は黄巾を平らげること その2
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過ごしては彼女等が危うくなる。
男は腰に刺した刀の柄へ、気づかれぬように手を滑らせた。
「若いの。おぬしにはまだまだ言ってやりたい事があるのだが、ここではどうも人が多いのォ・・・」
老人はそのやつれた見た目とは対照的に、すっと立ち上がって路地の奥へと歩んでいく。人目の付かぬ場所であるそこは、立ち並んだ家屋によって完全に日光が遮られていた。
(付いて来い、ということか)
男は柄に手をやったまま老人の後を追うように歩んでいく。入っていくと肉の腐臭が漂ってくるのがはっきりしてきた。食糧事情をめぐった問題が顕在化してきており、これを扱った一種の賭博も行われているとも聞いている。その成れの果てが、彼の足元に無様に転がる骸骨なのであろうか。
「こっちじゃ、若いの。右側の小屋じゃ」
彼の思考に老人の声が飛び込む。小さく開けられた木の扉から老人が顔を出してこちらを呼んでいた。目立たぬ所に設置された扉は周囲の風景に溶け込んでおり、入口が分かり難い仕組みとなっていた。このような所にて話がしたいとは、この老人もお尋ね者と言う所なのだろうか。
取っ手が無いそれを押すと、ぎぎぎと軋む音を立てながら開いていく。日の光を受けた部屋は埃が宙を舞っているのが分かり、さながら一種の隠れ家のように感じられる。男は刀を腰から抜くと、左手で柄を掴んで壁に背を預けた。目の前で悠然と座り込む老人は琴を地において手の中にあるサイコロを弄っている。
「はてさて、どう語ってよいものやら」
「戯言で戯れるほど暇は無い。さっさと用件を言わぬと斬るぞ。」
男の半ば本気の脅しを受けた老人は、珂珂と声を出して笑う。
「うむうむ、若人はジジイと違って血が滾っているかのォ。ならその滾りを後ろの阿呆へと向けてくれんか?」
彼の問いかけに半瞬理解が遅れるが、後ろから唐突に襲ってくる殺意を感じ、身を反転させて神速の如く居合い抜きを見舞った。切り抜けられた刀は彼が背を預けた壁を深く切り裂く。その壁の向こう側から、肉が裂けて血が噴き出す音がし、次いで地面にどさりと倒れる音がした。
肉を両断した刃には、不思議なことに返り血がこびり付いていない。それを許さぬほどの技量の持ち主なのだろう、男は険しい表情をしたまままだ気配を探っていた。
(・・・これしきの草に気付かぬとは不覚であった。だがこの老人はそれに気付いて、尚且つ赤の他人である俺に教えてくれた。争い事を齎しにきたわけではないようだな)
気配が無い事を悟ると、男は軽く刃を払って鞘に収め、老人の話に傾注する準備を整えた。これからが本番という風に老人は口を吊り上げて、単刀直入に尋ねた。
「あの者達・・・数え役満シスターズとかいったか、それを慕う『ふぁん』の中にはとある事情を知る者達が
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