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真・恋姫†無双~現代若人の歩み、佇み~
第三章:蒼天は黄巾を平らげること その2
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いによって地面から土が払われていた。
 演武はさらに二分ほど続き、仁ノ助は刃の閃きに目を奪われたままであった。自分が扱うのとではまた別の輝きがそこに見えたのだ。魔性の光、ともいうべきか。背筋がびびと震えて両肩が自然と近づき合うようなーーーしかもはっきりと浮かぶ月と星光を背景として(あたか)も虞美人草よりも尚綺麗だと思える美しさが存在したーーー魅惑的な華麗さであったが、薔薇のように危険を秘めているようにも感じた。
 「なかなかの業物だな。どなたが鍛えたのだ?」と、演武を終わらせて汗一つ掻いていない孫堅は問う。その真剣な目を見るに、彼女は大剣が孕むものについて何かを感じていた。

「詩花と旅を始めた町で、そこの鍛冶屋の人が俺にくれたんだ。その人自身が鍛えたかどうかは、分からないけどさ」
「大事にしろよ。これには人の執念が篭っている。その鍛冶屋はよほどこれに思い入れを抱いていたようだ。振る度に伝わってくるぞ」
「・・・何がだ」
「人の役に立ちたい、というものなら微笑ましかっただろうが、もっと恐ろしいものだ。『何時の日か、目にものを言わせてやる』。『雑草と踏み躙られる思いをとくと知るべし』。嗚呼、まるで下剋上の魂だ。中原の貧しき民の思いがこいつに篭っている。これは名づけるならば・・・いや、名づけるのもおこがましい。これはただ、人の恨みを込めただけの剣なのだからな」
「たかが十か二十、剣を振っただけなのに、そこまでの事が分かるのか?」
「まぁ、な。私の剣、南海覇王も、なかなかの業物だからな。伝わってくるものが似ているためかもしれん・・・おっと、今のは朱儁殿には内密に頼むぞ。娘や部下を残して反逆罪で処刑されたくはないからな」
「分かっているって。俺はそこまで口の軽い男じゃないよ」

 孫堅より剣を受け取った。重さ自体は変化が無い筈なのに、どういう訳か威圧感のようなものが感じられた。それは覇者の威光を彷彿とさせるような、凡百を惹きつけるような印象を覚えるものであったが、不思議と仁ノ助は魔性の光に魅入られる事は無かった。

「お前なら大丈夫かもしれんが、決してこいつに全てを委ねるような真似をするなよ。自分自身を破滅させるぞ」
「・・・忠言に感謝する。だが一つ聞きたい。どうして俺なら大丈夫と言えるんだ?」
「んー・・・これは私の口から言うには恥ずかしいな。自分で悟ってくれると有難い」

 そう言葉を濁した孫堅は、空漠とした大地を見遣るように外へと顔を向けている。仁ノ助は彼女の和らいだ横顔を見て、それが嘗て彼が日本の故郷で、母親が父親を見る時の視線にそっくりなものであると悟った。息子を見る時のものとは違った、確たる男女関係を秘めたような柔らかな表情であった。

「・・・孫堅殿は、俺を通じて誰かを見ていたな。山勘で言ってしまうのもアレだが
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