仔狼の苦闘
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は猟師、それも優れた猟師だ。獲物を狩る狼のつもりでいたら、自分が生贄の兎であったということになりかねんぞ』
ミッターマイヤーに念を押された言葉が今さらのように思い出されたが、それももはや無意味であるようにすら思われた。
結局、バイエルラインは敬愛する上官に救出され、忠告を活かす機会を得ることになったのだが、内心は忸怩たるものがあった。
後年グレゴール・フォン・ミュッケンベルガーの推挙によって皇太子アレクサンデル・ジークフリードの教育係となった時、『好機の時の自制』をことさらに繰り返して説いたのは、この時の経験が念頭にあったものであろう。
会戦の後半の時期において、バイエルラインの艦隊はかつてなかった慎重さと機を逸さぬ行動によって、幾度もロイエンタール軍の将帥たちの意図を阻んだ。臍を噛んだ将の中には、かつて彼がさすがと評したグリルパルツァーも含まれていた。
「育ち盛りの仔狼をなめすぎたか!艦列を整えて反撃、直ちに後退しろ!すぐに敵の本隊が押し出してくるぞ!」
後世の歴史家の両者への評価は、この直接剣を交えた短い一戦の採点を多分に含んでいたことは間違いない。「初手で喉笛に食らいつけばバイエルラインだが、牙をかわせばグリルパルツァーの勝ちは動かない」と評された両者の戦いは、手の内を逆転させたかのような奇妙な展開を見せ、ミッターマイヤーとロイエンタールの本隊の到来によって終結した。
「バイエルラインの青二才め。小才子の模倣とは余計な血が抜けて知恵が回るようになったか。これで生き残れば大した成長ということになりもしようが、付け焼刃で果たしてどれほど保つかな」
不敵な笑みを浮かべたロイエンタールの評価が、両者への評価の逆転にどれほど寄与したかは定かではない。このときグリルパルツァーが見せた直線的な攻勢はミッターマイヤーの攻勢を引き込んで戦線の崩壊を意図したものであったことは全てが終わってみれば明らかであったが、この時点でグリルパルツァーの暗い意図を察知し得た者はいなかった。予言者ならばいざ知らず、敵の殺戮を職分とする軍人たち、しかも職分を果たしている最中にの彼らにそんな予知をしろといっても無理な話であった。
「ほう、果敢だな。あるいは怒りに突き動かされているのか。いずれにせよ、知られざる一面と言うべきだな」
ミッターマイヤーですらそう評したにとどまった。いささか好意的な見方を含んだ評がそう遠くない未来に逆転することを予知すべくもなく、ミッターマイヤーは戦局の打開のために一石を放った。
「クナップシュタインの部隊に攻勢を集中させろ!」
コルネリアス・ルッツの麾下からミッターマイヤー直属に転じて参戦したホルツバウアー中将がロイエンタール軍の弱点と見なされた「建て増しの区画」に猛進した時、バイエルラインは名誉挽回のために突入を懇
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