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銀英伝小品集
仔狼の苦闘
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の肉体と精神は原子の塵に還元した。
 だが彼は天上の門をくぐるに際して孤独に涙することはなかった。
 さほど時を置かずして、彼の僚友たちも彼と同じ運命を辿ったからである。

 包囲され危地に陥ったバイエルライン麾下の艦隊にあって、最も奮戦したのはレマー中将の率いる2800隻であった。先鋒のグーデ分艦隊が致命的な一撃を受けたのを看取したレマーはホッターとヨッフム、二人の少将率いる分艦隊と連携し、狭いが密度の高い防衛線を構築して突出してくるロイエンタール直属艦隊の先頭に痛撃を浴びせた。
 「追う必要はない!目の前に現れた敵だけを撃て!」
 敵を近距離まで引き付けて砲火を浴びせ、その隙にワルキューレと小型艦艇による攻撃によって止めを刺す。鎖から放たれ、獲物に牙を立てようと躍り掛かったところに鼻面を強打され、ロイエンタール軍の前衛部隊はしたたかに打撃を被って一時後退を余儀なくされた。
 「戦艦マンハイム撃沈!コール提督戦死!」
 打撃戦艦群を率いる提督の戦死の報に、ロイエンタールは敵の手腕に感嘆した。
 「よく防いでいるな、さすがメルカッツの腹心といったところか」
 ロイエンタールはレマーを知っていた。
 中将時代のメルカッツの下で副司令官を務めていた男で、リップシュタット戦役後は国内の治安維持部隊にあったのをミッターマイヤーが特に選んでバイエルラインの麾下につけた男である。手腕が確かでなかろうはずはなかった。
 「だが、続きはせん」
 敵将の力量に感嘆しつつも、ロイエンタールの目は的確にその弱点を捉えていた。
 「狼の仔を引き裂く前に、玉葱の皮を剥くとしよう。ベルゲングリューンに連絡!」
下された命令は単純な猪武者なら卑劣として決して取らないであろうものだった。潰走する打撃戦艦群を収容すると戦艦部隊の主砲を遠距離砲に切り替えさせ、レマーの防衛線に決して近付くことなく外側から戦力を削り取ったのである。
 こうなってしまっては、いかにレマーが練達の用兵家といえど支えきるのは不可能だった。
 「戦艦シェーンヘル撃沈!ホッター提督戦死!」
 「戦艦ヘルメスベルガー撃沈!ヨッフム提督戦死!」
 味方が総崩れになる中、それでもレマーと彼の艦隊は戦線を支え続けた。
 だが、それにもやがて限界が訪れた。
 最初の砲火が交えられてから六時間後、レマーの旗艦ブロムシュテットをロイエンタール軍の砲火が捉えた。
 「味方は──!」
 脱出したか、との問いかけが、練達の用兵家の最後の言葉となった。

 「戦艦ブロムシュテット撃沈!副司令官、レマー中将戦死!」
 「レマーが?」
 自分の父親とほとんど変わらぬ年齢の副将の死の報を受けた瞬間、カール・エドワルド・バイエルラインは愕然とした。
 『バイエルライン、猪突するなよ。ロイエンタール
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