第三章:蒼天は黄巾を平らげること その1
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火の手が僅かに燻る大地には、濃厚な鉄の臭いが混じっている。血液に含まれる鉄分と金属が熱して溶けた臭いだ。その上を興奮冷めやらぬ格好で闊歩し堂々と城に入る者達。戦場の後始末が無事終了し、後は城内の整備だけとなっているため、その顔には幾分かの安堵が漂っていた。
「・・・これで長社は安全を取り戻したな。本当に良い時に来てくれた。感謝するぞ。騎都尉、曹操殿」
城内の、領主らが常は政談をする広い部屋にて、無精ひげが生えた顔を朗らかにさせて皇甫嵩が目前で礼をする曹操を讃える。自らの策が大きく成り、加えて曹操による追撃でさらなる犠牲を賊軍は強いられた。報告によれば葬った死体の数はゆうに数万を超えているという。しかもそれらの大部分は賊のものであったという。
こうと決まれば最早乱の趨勢は決したも同然であった。後は勢いのままに駆逐するのみである。
「いえ、我が軍は皇甫嵩将軍と朱儁将軍の計に乗じたまでです。この戦の大功はお二人にこそございます」
漢王朝最期の名将とまでされた皇甫嵩に対しては、いかに傲岸な曹操といえども素直に敬意を表していた。結果論となってしまうが、此度の戦場における本当の功労者は、長社を守り抜いた二人であると確信していたからだ。
「謙遜するな。賊軍の将軍たる波才を討ったのは卿の将であろう、我々の兵共が皆彼を讃えているぞ。敵将を討ち果たした勇猛な将であるとな」
「恐縮です」
朱儁の言葉は確かにその通りである。仁ノ助は見事に波才を討って戦の第一勲を獲得しており、長社の兵卒達から侮られる事も無くなっていた。客将の身でありながらこれほどの活躍をした者は中原広しといえどもそうはいないだろう。曹操は思わぬ拾い物をしたことに中々の喜びを感じていた。この時点で、彼女は仁ノ助を手放す選択肢を抹消していたといっていい。仁ノ助の過労生活が決定した瞬間であった。
一方で朱儁も、長社において中々の拾いものをしており、活躍は注目されなかったが先の乱戦で充分にそれを活用したのである。その者とは、呉郡・富春の生まれである孫堅文台という者で、後の『呉』の基礎を作り上げた英傑である。朱儁はこの優秀な手駒を遊ばせる気は毛頭なく、今後も活用していく方針でいた。
「して曹操よ、貴様はこれから何処へ向かう?俺たちはこれから汝南へ向かうが」
正史においては、汝南から頴川にかけての黄巾賊は皇甫嵩と朱儁旗下の軍隊により壊滅する。両将軍・両軍隊共に量も質も充実しており、賊軍相手に遅れをとることはないであろう。
二人の勇将に向かって曹操は己の意思を伝えた。
「我が軍はこれより黄巾賊追討にうつり、豫州平定を目指し、西華へと進軍する予定であります」
史実では曹操の活躍はこれ以降なく、後に功績によって済南の相となり平
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