第三章:蒼天は黄巾を平らげること その1
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た。曹操の静かな独白は続き、室内には彼女の言葉以外の雑音は全て排除されていた。
「中原の大地に賊の魔の手が蔓延り、無垢な民草をなぶり、希望の花を摘み取っているのをみすみすと見逃すは辛い事よ。この手が届くのならば私は全ての危険を刈り取ってやりたいわ。けれど私の手は自分が望む以上に伸びたりはしないし、頑強なものでもない。横から剣を下ろされれば、馬の足のように切り落とされる脆いものよ。だからこそ無理は出来ない。
私にはやるべき事がある。この天下に、何時の日か覇道による新しい世界を築いて、民達が笑みを交しあう真の平和を取り戻さなければならない。そのためには、こんな所で大切な腕を失う訳にはいかないの。たとえ民草が傷ついて大地に還っていこうとも、苦渋の涙を呑み込んで、私は彼らを見捨てなければならない。耐え続けなければならない。どんなに犠牲が強いられようとも、最後まで私が生き残っていなければ、この大陸は決して救われないのだからッ!!
・・・これから起きる不幸は、全て私の不徳と、力無さが招く結果よ。もし責めるというのなら、私からは何も言う資格は無いわ。好きに言いなさい。『あなたの下に従うのはもう御免だ』と。私は止めないわ」
自らからの支配下からの解放、放逐を赦して曹操は瞼を閉じた。一分の猶予をもって彼女は再び目を開けた。覚悟を決めたであろう臣下達は身じろぎもせずそこに立っていた。仁ノ助も、自らの覚悟が本物であるかどうかに不安を覚えつつも、その場に残ってしまった。目前の少女を見捨てるほど彼は冷酷な人間では無かったのだ。
皆の忠義に感謝しつつもーーーその一方で、滅私奉公の精神を貫く皆に一縷の罪悪感を抱いていたーーー、それを面に出す事無く曹操は告げた。
「あなた方に命じます。『決して戦死してはならない。決して私の傍から離れてはならない。決して、民を裏切るような真似をしてはならない』。これに誓えるというのなら、あなたの決意を掲げなさい」
それは一軍の長としての言葉というよりも、曹孟徳個人としての嘆願であるように聞こえた。強気な言葉の裏に、少女らしい寂しさを窺わせるものであり、仁ノ助は心をじんと打たれるものを感じた。
命令に最初に反応したのは、やはりというべきか、夏候姉妹であった。彼女等はその場に恭しく跪いた。
「誓います。私は常に華琳様の下にあります。この命と七星飢狼が齎すすべての勝利を、ただ貴方のためだけに捧げます。だから、どうか御自身を責めるような事を仰らないで下さい。私達は華琳様の優しさと強さを心より信じているのですから」
「私も誓います。姉者と共に戦場を駆けて、誰よりも多くの敵を仕留めてみせましょう。弓にかけて、あなたを御守りいたします。どうか不安を覚えた時は、私共を頼って下さい。お力になります」
「・・・ありがとう。春
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