第一部
第四章 〜魏郡太守篇〜
四十七 〜愛刀〜
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……私に?」
「はい、どうぞお持ち下さい」
「忝い。この通りだ」
私は、思わず頭を下げた。
その手が、震えるのを止める術もなく。
その様を見て、月は暫し、呆気に取られていたようだ。
張世平のところを辞し、城下一と呼ばれる刀鍛冶を訪ねた。
「これを頼む。研ぎ料は言い値で良い」
「太守様、本気ですかい?」
老いた刀鍛冶は、目を見開く。
「その代わり、お前の全身全霊を込めて、研いで貰いたい。良いな?」
「……わかりやした。ただし、お代は見ていただいてからで結構」
「ほう?」
刀鍛冶は、不敵に笑うと、
「太守様ほどの御方がそこまで言われるのなら、天下無双の業物と見やしたぜ。わっしも、職人としての意地がある。任せておくんなさい」
「わかった。では、終えたら城に知らせよ」
「へい!」
そして、二日後。
件の刀鍛冶から、兼定と国広を受け取った。
……全てが、別次元だな。
軽く、何度か振ってみる。
長年の友のように、しっくりと手に馴染む。
「見事だ。約定通り、研ぎ料は望む額を申すが良い」
「いえ、お代は結構。その代わり、あっしから頼みがありやす」
と、老鍛冶は眼を光らせた。
「申してみよ」
「へい。その剣、今後も必ず、あっしに研がせていただきたいんで。……それだけの業物、他の奴に任せる訳にはいかないんでさぁ」
「……良かろう。私もお前の腕、確と見させて貰った。お前になら、託せる」
「ありがてぇ。へへっ」
私は、武人。
刀を手放す事は、生涯あるまい。
……まさしく、真の友を得た気分だな。
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