第一部
第四章 〜魏郡太守篇〜
四十七 〜愛刀〜
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今ではこのようにご立派な郡太守。それ故、ご伝授戴いた石田散薬も、人々にあっという間に受け入れられた次第なのです」
結局は、知名度が物を言う、という事か。
池田屋での働きがあればこそ、新撰組も、世間にその名を知られるようになった。
……無闇に目立つ必要はなかろうが、私の働きがこのような形で功を奏すとは、な。
「ですから、私の行った投資が、このように利を生んだ訳です。となれば、土方様には借りはありますが、もはや貸しはございませぬ。御礼を差し上げるのは当然でございましょう」
「……わかった、そこまで申すならば。ただし、今はまだ、無用に願おう」
「と、仰いますと?」
「理由は二つある。第一は、要らぬ疑念を抱かれぬようにする為だ」
「疑念、ですか」
隣で話を聞いていた月が、首を傾げる。
「そうだ。確かに石田散薬は、私の名によって売れたのであろう。だが、その元締めである張世平から金を貰った事が公になれば、世間はどう見る?」
「……賄、そう勘ぐられますね」
「その通りだ。無論、私にも張世平にもそのようなつもりがなくとも、だ。私一人が悪く言われるのは構わぬが、それで皆に迷惑がかかる事、散薬の印象まで悪くする事は避けねばならぬ」
「……仰るとおりでしょうな。手前とした事が、迂闊でした」
頭を下げる張世平。
「今一つだが……月」
「はい」
「張世平には、話しておきたいのだ。良いな?」
「……わかりました。お父様にお任せします」
どのみち、いずれは明らかにする事ではあるが、今はまだ秘事。
だが、この者には話しておかねばなるまい。
「張世平、その前に一つ、確かめたい」
「何なりと」
「商人は信用が第一と聞く。無用な口外はせぬ、そう誓えるか?」
私の言葉に、張世平は居住まいを正す。
「仰せのままに。手前にも、商人としての誇りがございますからな」
「いいだろう。……私はこの月と、正式に親子の縁を結ぶ事と相成った」
「土方様と、董卓様が?」
「そうだ」
と、張世平はふう、と息を吐く。
「……土方様。思いきった事をなさいますな」
「さて、どういう意味かな?」
「お惚けなさいますな。少府と申せば朝廷の高官ですぞ。そのような方のお父君ともなれば、土方様御自身にも箔がつくどころではありますまい」
「確かに、絶好の機会、とは申さぬ。だが、この機を逃せば、月の父を名乗る事は永遠に適わぬものとなろう」
「どういう事にございますかな?」
「お前も存じているであろうが、陛下のお加減が優れぬとの事だ。そして、皇位継承者は未だ、明確にされておらぬ」
「そう、聞いております」
「その最中、月が赴けば宦官と外戚の争いに巻き込まれるは必定。……成り行き次第では、血で血を洗う事にもなりかねぬ」
「でしょうな。
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