第一部
第四章 〜魏郡太守篇〜
四十七 〜愛刀〜
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ばよいだけの事。少なくとも、その程度で全てが停滞するような組織ではない。気にするな」
「わかりました。お父様が、そこまで仰るなら」
月はそう言って微笑んだ。
「……月。その顔で言っても、あまり説得力はないぞ?」
「え? へ、へう〜」
……素直なのは良いが、あまりにも顔に出過ぎだな。
この性格が、魑魅魍魎どもに利用されぬ事を願うばかりだ。
「それより、お父様。何方かに案内していただければ、私一人でも廻れますが……」
「私が、お前と共に歩きたいのだ。それに、城下の事は存じておる。心配は無用だ」
「……お忙しいのに、いいんでしょうか。私一人の為に」
「良い。骨肉相食む時代に、娘を大切にしたいと願う父が、一人ぐらいいても良かろう?」
「……はい、お父様」
我ながら、親馬鹿なのやも、と思う事もあるが。
……気にしたら負けだな。
目抜通りを、手を繋いで歩く。
「賑やかですね、此処は」
「うむ。……私が来た当初からは、想像もつかぬ」
「前の郡太守は、私欲ばかりな方だったとか。お父様や皆さんが苦労された結果でしょうね、行き交う人々の顔に、笑顔があります」
「一部の者だけがこの世の春を謳歌するのは、裏を返せばそれだけ哀しむ者、苦しむ者がいるという事だ。この光景、当たり前と思うぐらいでなければいかぬ」
「お父様の理想、素敵です。私も、いつかこんな世が来ると信じて、頑張ろうと思います」
肩に力が入り過ぎ……そんな印象を受ける。
「月、気負い過ぎは良くない。特にお前は真っ直ぐに過ぎる」
「そうでしょうか?」
「そうだ。……月、知っておるか。清き水は確かに美しいが、魚は濁った水でなければ棲めぬのだ」
「何故ですか?」
「魚も、他の生物を食さねばならぬ。そして、それらの生物もまた、更に小さき生物を食す。その為には、水が濁る、つまり様々な生物が棲息出来る環境が必要、という訳だ」
「……お父様は、不思議な御方ですね。御自身では武人と仰られるのに、治世の妙も心得ておいでです」
月は、眩しそうに私を見た。
「全て、先人の為した事を存じているまでだ。独自の考えではない」
例えるなら田沼意次公と、松平定信公。
いずれも老中として幕政改革に当たったが、その手法も思想もまるで異なっていた。
このように、先人には学ぶべき事も多い。
「それは、私達も同じですよ。学問も米麦の育て方も、みんな昔の人が残した、為した事に学んでいる訳ですし。でも、学ぶだけなら、機会さえあれば誰にでも出来る事。そこからの取捨選択は、個々の才能と努力になると思います」
「その通りだ。だが、我が本分は武。それは今更変えようがあるまい」
「…………」
「ならば、月のような、戦を望まぬ者らが中心になる世を創るため、礎となるだけの事だ」
「お父
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