崑崙の章
第21話 「ほらよ……涙拭けって」
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涙が溢れていた。
―― 関羽 side ――
「で、ではそういうことで!」
「お、おまちを、雲長様! でしたら、こちらの商品を――」
「い、いやもう結構! 要件は伝えましたゆえーっ!」
私は逃げるように呉服屋から脱出する。
後ろは振り返らない。
いや、振り返れない。
どうせ主人が、また大量の服を持って迫ってこようというのだろうから。
「はぁ……はぁ……はぁ……あーまいった……」
しばらく呉服屋から走り逃げて一息つく。
なんとか逃げおおせたようだ。
「霞に上納した感想については、喜んでくれたのはいいとして……まさか新しい服を出してくるとは思わなかった」
この秋の新作ですとか言って出してきたのは、白い布一枚……
下履きの代わりにこれを巻けということらしい。
「なにが秋の新作『褌』だ……あんなもの履けるものか」
それが善意であるとわかっているだけに、なおさら……
気持ちはわかるが、押し付けられるこちらの身にもなってほしい。
下着くらいは自分の趣味で選びたいものだ、うん。
「はぁ……さてと、昼までは時間があることだし、市場を見回りしていくとするか」
そして周囲を見回す。
市場の内部は活気もあり、どの商人の声にも張りがある。
その商品も、値札をつけるという効果により、相場を目で見て判断することができるようになった。
そのため、値下げ交渉などが主流であった販売形式ではなく、表示価格を競わせることでの販売競争を活発化させた。
それは、不当に高い値段や詐欺を防止することができるようになっただけでなく、相場の安定をも生み出した。
このくらいの値段でこれだけのものが手に入る。
その一定の値段の表示は、新規の商人への無言の圧力にもなり、また旧来の商人の不正な価格操作の抑制も果たしている。
相場を十日に一度チェックして、信用できる商人にその値段で販売するように定期的に指示している朱里は、本当によくやっているといえるだろう。
『もう少し道徳観念が育てば、商人の中から市場のまとめ役を選んで責任者にするんですけどね。まあ、これはまだまだ先の話です』
そう言って笑う朱里に、ついつい頭が下がる思いだ。
彼女の……いや、彼女たちの市場に賭ける執念には、並々ならぬものがある。
それは、税の健全化と定収入化を目指した政策の根本でもあるらしい。
これら全てが、ご主人様からの薫陶らしい。
まったく、何処まで凄い方なのだ、ご主人様は……
(だが、そのご主人様が旅に出られて間もなく一年になろうとしている)
去年の暮には戻ると約束したご主人様。
あれだ
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