崑崙の章
第21話 「ほらよ……涙拭けって」
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は去年もこの街に来たけど、そんな許可証なんていらなかったじゃないか!」
「ここは劉備様が治めるようになって、全部変わったんだ! 商売するなら登録も必要なんだよ! それを破る奴は、市場全体で取り締まることが許されてるんだ!」
「おとなしくしてろよ……逃げようなんてしたら、市場全員でお前を追うからな」
「ひ、ひぃ……」
周囲の屋台の店主たちだけでなく、買い物客の漢中の住人までもが取り囲む。
彼らの異様な迫力に、親父は腰を抜かしたように蹲った。
その様子に半ば呆然として見ている俺がいる。
正直信じられなかった。
この時代、商人が客に高めで売りつけるのは当然の事。
値下げ交渉を行うのも、買う側の技量の一つとしている風習すらある。
現代とて啖呵売など、フリーマーケットなどでは当然あるようなことなのだ。
言い値で買うことの愚かしさを、親が子に教えることすら通例なのである。
だが、今ここの人たちはなんと言ったのか。
『値札をつけることが明記』
『不平等・不正な行為は厳しく取り締まる』
『詐欺まがいの商売はするな』
これらはすべからず、道徳観念がよほど発達した時代でなければ。
そう……現代のような売手と買手の信用関係を第一とするような、売買契約社会でなければ通用しないことなのだ。
それを、たった一年で……しかも、高い教養がないであろう民自身がそれを口にした。
これを驚かずして何を驚けというのだろうか。
(どうなっているんだ……?)
俺は、本当に呆然としていたのだろう。
他の商人のおばちゃんが、両肩を揺するまでそのことにも気づかなかった。
「ちょっとあんた! 大丈夫かい?」
「はっ!? あ、ああ……え、えーと?」
状況の整理がつかずに上擦った返答をしてしまう。
その様子に、呆れたような溜息をつくおばちゃん。
「あんた、そんなんじゃ他の街や邑でも相当ボラれてるんじゃないかい? だめだよ、いい男がそんな無防備じゃ。ここが劉玄徳様のご領地でよかったねぇ」
「は、あ、いや……」
いや……恥ずかしながら、他の土地では値下げ交渉するところから始まる買い物に慣れきっっていた手前、定価での売買に戸惑っている。
というか、他の土地の者なら、皆こんな状態になると思うんだが。
「まあ、あたしらも去年まではこの親父と同じだったけどさ……でも、これからは信用が第一なんだよ。だから、それを守らない奴は、あたしら自身で取り締まらなきゃならないのさ」
「そうだぜ。この市場は、劉玄徳様の最初にして至高の政策の結果なんだ! 俺らが守らなきゃな!」
「ああ! 劉玄徳様だけじゃない……宰相の諸葛孔明様のおかげなんだしな!」
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