第三章
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「これもな。しかしだ」
「罪はですか」
「それは」
「やはり私は罪の方が大きく重いな」
暑さから感じている言葉だ。
「では暑いまま寝よう」
「水に氷を入れて持って来ましょうか」
一人が暑いと言う彼に気を効かせてこう言ってきた。
「そうしましょうか」
「冷たさで涼しくなるか」
「どうでしょうか」
「いい」
島崎は彼のその申し出に微笑んで返した、顔は天井を見たままだ。
「それはな」
「宜しいですか」
「そこまでして涼しくなってもな」
それでもだというのだ。
「意味がない、それに布団の中にいてはな」
「それではですか」
「氷を入れたものでもすぐに暑くなる」
布団の暑さでそうなってしまうというのだ。
「だからいい、それではだ」
「では、ですか」
「水だけでいい」
氷はいいというのだ。
「それを頼む」
「わかりました」
こうして水だけが持って来られた、島崎はそれを飲む。そして時間をかけてゆっくりと飲み終えてからこう言ったのである。
「この状況でも水だけは美味いな」
「食べられなくともですか」
「それでも」
「水は違う」
満足している言葉だった。
「ではな」
「はい、それでは」
「また何かあれば」
「次が最後かもな」
島崎は周りの言葉を受けてから言った。
「そうも思う」
「次ですか」
「その時にですか」
「そう思いながら飲んでもいる」
その時が刻一刻と近付いている、そのことは確かだった。
島崎はそのことを感じながら待っていた、そして彼は遂に周りにこう言ったのである。
「今さっき見た」
「見た?」
「見たとは」
「お迎えだよ」
それを見たというのだ。
「枕元にな」
「あの、それでは」
「まさにですか」
「いよいよだろうな」
死ぬ、そうなるというのだ。
「私は死ぬ。しかし暑い」
「あの、では」
「先生は」
「やはり罪の方が重かった様だな」
島崎は死の床で微笑んで言った。
「私は」
「ですが」
「それは」
「その時までは」
お迎えが見てもまだ僅かに時がある、まだ見極められないというのだ。
「もう暫くです」
「お待ち下さい」
「本当にあと少しだ」
島崎はその彼等にまた言った。
「今も見た」
「ですか」
「今も」
「さて、身体から力も抜けてきた」
いよいよだ、そうなってきたというのだ。
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