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至誠一貫
第一部
第四章 〜魏郡太守篇〜
四十六 〜父娘〜
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………」
「寝付かれませんか、歳三様」
「……起きていたか」
 そっと、私の背に、稟の手が置かれる。
「隣にいるのです、気付いて当然です」
「そうか」
 臥所から起き上がり、窓の傍に立つ。
 今日は、朧月夜か。
 ……今宵の月のように、洛陽に向かって居るであろう月の心中も、朧気に霞んでいるのであろうか。
「月殿の事が、気がかりですか」
「ふっ、稟にはお見通しか」
「ふふ、そのぐらい予想できなくては、歳三様の軍師は務まりませんからね」
 そう言いながら、私の隣に立つ稟。
「……少しばかり、昔語りをするが、良いか?」
「はい、伺いましょう」
「……私は、父の顔を知らぬのだ。生まれる三月前に、労咳で死んだらしい」
「…………」
「それ故、私は父子の繋がり、というものが実感できぬのだ」
「それで、月殿に父、と呼ぶ事を赦されたのですか?」
「……さて、な。今となっては、我が事ながらわからぬが。成り行きとは申せ、そのような心づもりがあったのやも知れぬな」
「ですが、月殿は真の家族の如く、歳三様を敬愛しています。血の繋がりはなくとも、余所目には父子、と映りますよ」
「無論、そのつもりでいる。……それ故、父として何を成すべきか、正直思い悩むところでもある」
 稟が、私の腕を取った。
「……如何致した」
「あまり、お一人で思い詰めないで下さい。歳三様には、私がついています。いいえ、私だけではなく、風も、星も、皆がついているではありませんか」
「だが、お前達には日頃から負担をかけている。私的な事で、更なる荷を負わせる訳には参らぬ」
「それこそ、水くさいというものですよ? 歳三様が月殿を家族、と思われているならば、私達にとってもそれは同じ事です」
「稟……」
「確かに、月殿が今、洛陽に赴かれるのは得策ではありません。ですが、そのまま并州におられれば平穏なままか、とも思えません。戦乱の世は、目前に迫っていますから」
「…………」
「それに、歳三様の今一つの懸念も、まずは何か手を打たなければ始まりません」
「それも、気付いていたか。流石だな」
「世間では、歳三様を鬼、と見なして恐れるばかりの輩もいます。ですが、私達は歳三様の本質を知っていますから」
「……私の知識通りに事が進めば、あの仲の良い姉妹は引き裂かれる。思い上がりかも知れぬが、看過は出来ぬのだ」
「ならば、その為の策を立てよ、と一言お命じ下さい。結果で後悔するよりも、見過ごす事での後悔が大きいならば、やってみせるだけの事です」
「……わかった。ならば、その為の手立て、皆と進めよ」
「御意」
 稟には、一切の迷いも躊躇いもない。
 私とした事が、気の迷いとは……これでは、いかぬな。
「さ、歳三様。明日に差し障ります、お休み下さい」
「うむ」
 私
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