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蜘蛛女
第三章
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「ここは」
「どうしてもっていうんなら」
「じゃあ酒に。それにな」
 それに加えてだった。
「この季節だ、鰹だな」
「鰹ですか」
「ああ、初鰹あるかい?」
「ありますよ、じゃあそれと酒ですね」
「頼むぜ、じゃあな」
 遠山は花魁にも声をかけた、そうしてだった。
 二人でその二階の一番奥の部屋に入った、そこは広いが普通の遊郭の部屋だった。窓が左の方にある。
 その部屋に入るとだ、花魁は遠山に大して布団を見ながら言った。
「あの、それでありんすが」
「酒飲もうぜ」
「まずはでありんすね」
「ああ、飲もうぜ」
 こう言ってそしてだった。
 彼は二人で飲みはじめた、遠山は鰹も楽しむ。しかし床には入らなかった。花魁はその彼にこう問うた。
「今日はでありんすか」
「ああ、飲むだけにするさ」
「じゃあ今度でありんすね」
「こういうのは焦ったら駄目だよ」
「お兄さんわかってるでありんすね」
 花魁はその彼の言葉を聞いて笑顔で言った。
「吉原が」
「おうよ、がつがつせずにな」
「遊びはゆっくりでありんね」
「そうでい、じゃあ今日は飲むだけでい」
「わかったでありんすよ」
 花魁はそこに遠山の粋を見た、吉原ではその花魁と一緒に部屋に入っても最初は床に入らない者もいた。それは次からで話をしたり共に飲み食いすることを楽しむというのがあった。
 それで彼にその粋を見て受けたのだ。
 それで飲んでいるとだった、窓の方に。
 遠山はあるものを感じた、そこをちらりと見た。
 しかし花魁にはその素振りは見せないで世間話を続けた。
 鰹も酒も楽しんでからだ、彼は店を後にした。入口には与力が待っていた。
 金を払って出るとだ、遠山は後ろに続く与力に問うた。
「どうだったんでい、おめえは」
「遊びの方ですか」
「床には入らなかったんだな」
「はい、それは」
 とてもだと答える彼だった。
「しませんでした」
「だろうな。おいらもだよ」
「ですか」
「酒と鰹は楽しんださ」
 口には楊枝がある、それを咥えながらの言葉だった。歩き方は相変わらずで酒のせいで顔は赤くなっているがほろ酔い程度だ。
「けれど床には入らなかったさ」
「それで早かったんですね、お互い」
「そうだな。それでだよ」
 ここで遠山の目が光った、そのうえで与力に言う。
「おいらはあの部屋に入った」
「はい」
「で、どうなるかだよ」
「何が来るでしょうか」
「まあ何が来てもいい様にしてるさ」
 遠山はこう言いはする。だが。
 与力の見たところ彼は軽装だ、それでその彼に問うた。
「刀も持っていませんが」
「二本差しだな」
「それでもいいんですか?」
「遊び人が二本差しなんか持つかい?」
「持ちませんが」
「そういうことだよ
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