第一章
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蜘蛛女
吉原の遊郭において怪しげな噂が広まっていた。
吉原でも有名な店である蝶柳の二階の一番奥に入った客が消えるというのだ。そしてそれから二度と姿を見せなくなる。
店を出るまではいるが夜の吉原を歩いているうちに煙の様に消える、そしてそれから二度と姿を現さなくなる。
この話は奉行所の耳にも入った、奉行である遠山金四郎景元の耳もその話を聞いた。
遠山はその話を聞いて話をした与力達にこう言った。
「ふむ、それは面妖な」
「はい、おかしなことにです」
「店を出て消えるのです」
与力達も遠山にいぶかしむ顔で話す。
「夜の吉原を歩いているとすうっと」
「まるで煙の様に」
「おかしなこともある、しかし」
遠山は彼等の話を聞きながらこう言った。
「その話は何とかせねばならんな」
「ですな、人が続けて消えるなぞあってはなりません」
「ですから」
「そうじゃ。謎の発端は間違いなく蝶柳にある」
その店にだというのだ。
「このことは間違いない」
「では店に行き」
「そのうえで調べますか」
「しかし店主も他の者も関係はあるまい」
遠山は彼等はこの事件には無関係だというのだ。
「誰もな」
「誰も、ですか」
「関係ありませんか」
「店の中なら関係はあるだろう」
店の中で客が次々と消えるのなら、というのだ。
「それならな。しかし」
「店の外で消えますから」
「それを考えますと」
「その二階の部屋にいる花魁は決まっておらんな」
遠山は与力達にこのことも問うた、今は奉行らしくしっかりとした口調と表情だ。
「そうであるな」
「はい、その日によって違います」
「花魁達は消えませぬ」
「消えるのは部屋に入った客達だけです」
「男ばかりです」
「それでは花魁は関係ない」
遠山はこうも言った。
「そもそも花魁が店を出られるか」
「それ自体が難しいですな」
「客を取らねばなりませんし」
「まして消えるのは夜です」
「夜に花魁が店を出られるかといいますと」
夜に客を取るのだ、それならだった。
「有り得ませんな」
「夜に店を出るのは」
「ではやはり花魁ではない」
「左様ですか」
「そうじゃ、かといって店の者かというと」
店にいるのは花魁だけではない、花魁の世話をする者や太鼓持ちに料理人にやり手婆と色々ある、しかし彼等も。
「後ろから刺し殺すなりするのではないからな」
「まさに煙の様にすうっと消えますし」
「それならですな」
「そもそも人がしたものとは」
「うむ、わしはこの話は人がしたものとは思えぬ」
遠山は難しい顔で述べた。
「まずな」
「では妖怪でしょうか」
「その類でしょうか」
「それはこれから確かめるとしよ
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