第一部
第四章 〜魏郡太守篇〜
四十五 〜南皮〜
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の前に立ちはだかる。
「どけ。あたいが用があるのは、その男にだ」
「そうは参らん。貴殿はご主人様に害を与えようとしているのだ、私が何としてもそれを阻止するまで」
「ああ、そうかい。なら、力尽くでどかしてやるよ!」
そう言いながら、文醜は剣を構える。
「止せ。貴殿では、私に勝つ事は叶わんぞ?」
「うるせぇ!」
聞く耳を持たぬ、という事か。
「愛紗、これを」
私は、立てかけられていた青龍偃月刀を、愛紗に手渡した。
「だぁぁぁぁっ!」
「ふんっ!」
重そうな文醜の一撃を、愛紗は事もなげに受け止めてみせた。
「どうした? この程度か?」
「くそっ! でやっ!」
文醜も愛紗も、室内で振り回す得物には些か不適切だ。
だが、共にひとかどの武人、それを感じさせぬ立ち会いを見せている。
「歳三さん。宜しいのですか、このままで」
「確かに、何処かで止めないと、建物が壊れますねー」
二人の申す通り、無理に得物を振るう結果、柱や壁が、徐々に傷つき始めている。
まずは、一旦二人を止めねばならぬな。
私は国広を抜くと、二人の間に投げつけた。
「なっ!」
「おっと!」
文醜と愛紗は、素早く互いに身を引いた。
「何するんだ!」
「勝負ならば表に出るがよい。それとも、この宿舎を破壊するつもりか?」
私の言葉で、周囲の惨状に気付いたようだ。
「……チッ、しゃあねぇな」
「ご主人様、ご配慮、痛み入ります」
そして、庭に出ての仕切り直し。
「じゃあ、行くぜ!」
「応、いつでも来い!」
「だりゃぁぁぁっ!」
相変わらずの、大ぶりな文醜の一撃。
攻撃の型が、常に一直線なだけに、見切るのも容易い。
……案の定、勝負は一瞬でついた。
文醜の一撃を跳ね返した愛紗が、返す刀でその喉元に、青龍偃月刀を突き付けていた。
無論寸止めだが、愛紗がその気ならば、文醜の首と胴は永遠に別れを告げていたであろう。
「な、何でだよ!」
「諦めろ、貴殿の負けだ。恨むなら、己の腕の未熟さを恨むのだな」
冷たく、愛紗が言い放つ。
「ぶ、文ちゃん! 何やってるのよ!」
そこに、顔良が駆け込んできた。
「あ、斗誌。いや、あたいはただ、姫を泣かせた奴を許せなくて」
「もう、麗羽様がカンカンよ。すぐに、麗羽様のところに戻って!」
「いいっ?」
「ほら、早く!」
そう言いながら、顔良は文醜を引きずっていく。
途中で、何度も何度も、私に向かって頭を下げながら。
「愛紗、ご苦労だったな」
「いえ、猪武者に後れを取るようでは、ご主人様のお役には立てませんから」
そう答える愛紗の表情には、余裕が感じられた。
この世界でも、両者には歴然とした力の差があるようだな。
「さて、要らぬ横槍がまた入るやも
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