第一部
第四章 〜魏郡太守篇〜
四十五 〜南皮〜
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ていた。
「よ、よく来て下さいましたわね」
「我らも、長居は許されぬ身。そろそろ、暇を、と考えていたところだ」
「そんな。まだ、何のおもてなしもしていませんわ。それどころか、大変なご無礼を」
「私は気にしておらぬ。それに、気遣いは無用に願いたいのだ」
「そうですか……」
やはり、いつもの居丈高な様ではなく、むしろしおらしい程だ。
むむ、調子が狂うな。
「……袁紹殿。単刀直入に、用向きを申されよ」
「そ、そうですわね」
居住まいを正し、袁紹は私を見据える。
「……土方さん、わたくしが冀州牧の座を願っている事は、御存知ですわね?」
「ああ」
「単刀直入に言いますわ。わたくしに、力添えしていただけませんこと? 袁家の名声と財に、土方さんの武と智が加われば鬼に金棒、向かうところ敵なしですわ」
また、その話か。
「以前にも申した通りだ。私は、貴殿に与するつもりもなければ、その義理もない」
「わかっていますわ。ですから、金塊などではなく。……わ、わたくしを好きになさって構いませんのよ?」
袁紹は、耳まで真っ赤だ。
……なるほど、今度は己自身を餌にするのか。
確かに袁紹は美形で、身体つきも立派だ。
……む、控えている文醜が、にやにやと笑みを浮かべている。
ふむ、どうやらこの入れ知恵をした張本人らしいな。
「袁紹殿。ご自身が何を言ったか、意味はわかっておいでか?」
「と、当然ですわ。袁家たるもの、嗜みとしては」
「……だが、貴殿は生娘であろう? 仮にも名家ならば、今少し慎まれよ」
「姫、はっきり言ったらどうですか?」
焦れたように、文醜が口を挟む。
「い、猪々子さん、お黙りなさい!」
「いや〜、見てらんないんですよね」
ますます、袁紹は赤くなる。
……よもや、とは思うが。
「袁紹殿。私がそのような男とお思いか? 見損なわないでいただきたいものだな」
「あ。ち、違いますわ!……うう」
「あ〜、もうじれったいなぁ。はっきり言わないとダメですってば」
「やれやれ、そう言う訳ですかー」
ここまで来れば、私も風も飲み込めた。
「……あの、歳三さん? まさか、とは思いますが……」
「愛里ちゃんが想像している通りみたいですよー?」
「にゃわわ……。そ、そんなのありですか?」
愛里でなくとも、驚くのは無理からぬところだ。
……しかし、合点はいかぬな。
如何に上から目線とは申せ、私は袁紹の誘いを手酷く突っぱねた。
洛陽では、一触即発にまでなった間柄だ。
嫌われるならまだしも、好意を持たれる要素など微塵もあり得ぬ筈だが。
「さてさて、お兄さん。どうされますか?」
「うむ……」
想定外だけに、咄嗟に良き案は思いつかぬな。
そんな私を、袁紹は上目遣いで見ている。
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