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至誠一貫
第一部
第四章 〜魏郡太守篇〜
四十四 〜袁本初〜
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、行方を眩ましてしまったのでしょうかー?」
「……そうなんです。こんな書き置きを残していったんですが」
 と、顔良は一通の書簡を差し出した。
「あの、読んでも宜しいのですか?」
「どうぞ。機密になるような事は、書かれていませんから」
「では、失礼します」
 愛里がそれを受け取り、卓上に広げた。
 そこには、仕えるべき主人をもう一度見定めたい、それ故今一度旅に出る、とだけ記されていた。
「……失礼だが、荀ケは袁紹殿を見限った、としか読み取れぬが?」
「……やっぱり、そうですよねぇ。以前から、麗羽様に不満を持っていたのは知っていたんですけど」
「それにしても、唐突ですね。失踪前の様子はわかりますか?」
 愛里がそう言うと、顔良は少し、首を傾げた。
「はい。土方さんの前であのような無礼を働いた後、だいぶ後で意識が戻ったんです。その後で、麗羽様から酷くお叱りを受けまして……麗羽様、恥をかかされたってカンカンでしたから」
「自業自得ですね、それは。それで、その後はどうなりましたかー?」
「麗羽様と口論の末、部屋に閉じこもってしまったんです。夕食にも手を付けずにいたみたいなんですが、その後で様子を見に行った兵が、部屋からいなくなっている事に気付きまして……それで」
 慌てて大捜索、という次第か。
 袁紹の下には、軍師はおろかまともな文官がいない事は、先ほどの会話で知り得た事だ。
 性格を別にすれば、荀ケほどの人材は、袁紹麾下では貴重どころの話ではあるまい。
 ……尤も、袁紹本人がどこまでその価値に気付いているかは、甚だ疑問ではあるが。
「あの、土方さん。……気を悪くされたかと思いますが、荀ケさん、男の人には誰でもあんな態度なんです」
「さもあろう。全くの初対面で、あそこまで一方的に憎まれる謂われはない」
「そうなんです。お陰で、彼女が麗羽様に仕官して以来、一方的に罵倒されたりする男の文官が、次々に辞めてしまいまして……。ただでさえ人手不足なのに、うう……」
「いくら何でも、それは問題だと思うのですけど。……もしかして、先ほど荀ケさんを庇ったのは……」
 愛里の言葉に、顔良は俯いた。
「……はい。性格に難がある事はわかっているんですけど、それを補って余りあるだけの智謀を持っていますから。麗羽様も文ちゃんも、内向きの事では全く頼りにならなくて」
「良いのか、そのような内情を私に話しても?」
「……いいんです。外見だけ取り繕っても、いずれ露見してしまいますしね」
 顔良は苦笑した。
「だから、今荀ケさんにいなくなられては困るんです。それで、私の一存で兵を出して探させているんですが……」
 事情はわかったが、荀ケ探しに協力する理由は何処にもない。
 私が男と言うだけで、一方的に無礼を働いた事もあるが、今の袁紹が州牧だけ
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