第五章、その2の1:圧倒
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雪片がひらはらと雲海から落ちていく。鳥ですら届かぬような高みから落下するそれは、吹きつける強風によって白の峰の頂を掠めて、やがて石造りの遺跡へと向かっていく。近付きつつある嵐を前に避難するつがいの鳥をかわして、雪片は遺跡中央の宮殿らしき建物へと向かっていく。その損傷の激しさは一体何を物語っているのか、雪片には理解ができない。ただそれをそのままにしてしまうのは余りに侘しいものだと言わんばかりに、雪片は宮殿をぐるりと囲う崩れかけた螺旋階段に落着する。
もうすぐ、雲海からは濁流のように雪が降る筈だ。それが積もればこの遺跡には厚い化粧が施され、身体の傷を白粉で隠す事ができよう。冬の陽射しを浴びればさぞや美しい光景となるに違いない。その時、自分は積雪の中できっとーーー。
ーーーおのれ、ちょこざいなっ!!
力強い羽ばたきが宮殿の外壁にかかり、大きな爪が壁を崩す。その爪はすぐに離れていくが、後を追ってきたように幾本もの氷の柱が飛来して外壁に突き刺さる。その鋭さのあまり、壁の向こう側まで貫かれてしまった。況や人体に食い込めば致命傷を負わないでいられないだろうか。而して氷の柱が狙っていたのは人ではない。鳥獣の如く獰猛で御伽噺のように荒唐無稽な存在、すなわち一匹の龍であった。
空駆ける龍の身体は傷らだけであった。鱗の隙間からは刃傷による流血が見受けられ、腕や尻尾、更に腹部には氷の柱がまっすぐ突き刺さっていた。肉厚な身体のため臓器は傷ついていないようだが、それでも十二分なダメージになっている事には違いない。龍の顔つきは怒りや痛み、そして焦りが滲んでいるかのように歪んでおり、眼下を蠢く忌々しき生物達を睨んでいた。『そいつらのせいで傷ついたのだ』と考えると、ますますと心が掻き立てられ、龍は一気呵成に急降下し、牙の餌食にせんと顎を大きく広げた。
だが眼下の生物達、召喚魔法によって使役された人間の死体達は、そのあけすけな攻撃をいとも容易く回避する。鷹と見紛うほどの速さであったそれを避けた彼らは、各々武器を『召喚』させて反撃に転じる。中空からは氷の柱が、地上からは青白く透明な刃が、容赦なく龍に傷を負わせていく。一つ一つは小さくとも幾つも重なれば重傷足り得る。龍は怒り散らすように尻尾を振り抜いた。家屋の死角から迫って来たために、また一人肉体を粉々にされてしまう。
「案外・・・」と、戦闘の様子を見守っていた老人、マティウス=コープスは零す。傍には屈強な傀儡が一体控えていた。傀儡の割にこの待遇は、彼の中でこの個体を特別視する理由があるからだろうか。
「戦闘は拮抗するようだ。さすがは古より伝えられし最強の有翼生物。火を吹かないのには拍子抜けだが、それ以外は伝承通りじゃないか」
「・・・ですが、不満と」
「ああ。伝承から推測できる部分は数多くあった
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