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王道を走れば:幻想にて
第五章、その2の1:圧倒
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方位から傀儡達の魔術が雨霰とばかりに龍を襲っていく。もはや近接攻撃に頼る必要が無いのか専ら打ちだされるのは氷の柱であり、鉄色の肌があたかも剣山となる勢いで柱を咥えこむ。真っ赤な流血が迸り、龍は苦痛に身を捩らんとするも網のせいで全く身動ぎできずにいる。そこには互いに闘志をぶつけ合う崇高な理念など存在せず、ただ弱者を甚振るだけの凄惨な光景だけが広がっていた。

 ーーー馬鹿な。この我が。この龍の身体が・・・人間風情に!

 龍は慟哭のように一際強く叫ぶ。この世の不条理を問うような悲嘆さに満ちたものであった。しかしそれは傀儡達の魔術が炸裂する音にかき消されてしまい、終いには、マティウスが放った極大の雷撃を受けて喉を焼き切られてしまう。その一撃は龍が纏った魔力よりも数段精錬され、そして人が持つには余りに過剰すぎる程の膨大なものであった。まるで魔力の泉が、老人の中に存在しているかのようある。
 龍属たる誇りを毀損される屈辱を感じ、同時に龍は人間に対する憎悪を抱く。狂王の復活を前にしてこの純真な忠誠心を蹂躙する人間たちを心底呪いながら、第二の雷撃により、龍の頸はあっさりと胴体から切り離されてしまった。頑強であった鱗も肉厚な筋肉もただの消し炭となってしまい、青白い火花の中へと消えてしまう。傷口から濁流のように血を流しながら、龍は力無く倒れこみ痙攣する。そしてその数十秒後には、ぴくりとも動かなくなってしまった。数百年の時をただ一人の王に捧げた龍の一生は、実に呆気なく終わりへと導かれた。

「ふん。最後まで期待外れな蜥蜴よ」

 マティウスは家屋の陰から出ると、すたすたと、まるで散歩でもするような気軽さで龍の横を通り過ぎていく。手をひらりと翳せば龍にかかっていた魔力の網は消失し、惨たらしい大きな骸が露わとなってしまう。地面を流れる血液の量も夥しいが、マティウスに触れる直前に壁にでも当たっているかのように横にはけてしまう。前面に控えていた屈強な傀儡を横に控えさせると、マティウスは思い出したように立ち止まって振り返ると、生き残った傀儡の数を知る。
 龍との戦闘は激しいものだったようだ。元は十人程連れていた筈なのだが、今はたったの五人しかいない。傀儡の中では一番マシな、屈強な奴を入れたとしてもこの数である。傀儡の素体となった魔術士が弱すぎたのか、はたまた龍の反撃が予想以上に強かったのか。正確な認識がつくものではなかったが、これ程までに傀儡を失ったのはマティウスにとっては痛手であった。自らの好奇心の充足に心より従順になってくれる、優秀な助手が一気に減ってしまったと考えれば、きっとまともな人間でもこの損失を理解してくれる筈であった。

「さて、そろそろ宮廷に入るとするかな。中はどうなっているのやら・・・もっとも、大体は想像がつくのだがな」

 マティウスはゆ
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