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王道を走れば:幻想にて
第五章、その2の1:圧倒
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。たとえば個体によって戦闘力や、好戦意識にも差異があるだろうと。龍の寿命が長いゆえ、一つの個体が数世代にわたり、あたかも複数の龍と誤認されるのだろうと。
 あれの戦いぶりを見る限り、正体にも察しがついたよ。あれは嘗て、このヴォレンドで狂王に仕えていたという龍、サー=ドリンだ。誰にも屈さぬ龍属の中で、唯一、人間に忠誠を誓ったとされる伝説の龍だ。狂王の死とともに南に飛び立ち、以後姿を晦ましたとされていた。それがここに戻って来たという事は、狂王の復活の兆を嗅ぎ付けたという事なのだろうな」

 そうこう説明する間に攻防は激化する。振りかかる魔術を耐え抜きながら、龍は流星とも思わんばかりの突撃して一体の傀儡を見事に咥える。直後、その軟な身体は茶菓子のように噛み千切られてしまった。これ程の気迫に満ちた光景を見ても尚、マティウスの心を揺さぶられない。一件凄まじいとも思える攻撃であるのだが、傀儡を一体殺すまでに受ける魔術の量は明らかに上昇している。これの意味するところは、龍の体力に限界が近付きつつあるという事であった。ゆえに先程の突撃も冷静に見れば、周りの状況をよく見ない捨て身の攻撃といっても過言では無かったのだ。
 マティウスは失望する。障壁を破った時のように魔力を使えばいいものを、あの龍は全く行使しない。何か切り札があるかと思ったがそれも全く見受けられない。どこまでも期待外れの戦闘能力であったのだ。

「・・・つまらないな。戦い方は至って単純。圧倒的な質量を頼みとして、ただ只管に相手に迫るだけ。攻撃が届く範囲を見極めれば傀儡を失わずに済んだやもしれん」
「ならば穴埋めとして、龍を捕縛いたしますか?過去に人間に従ったというのなら、『洗脳』でどうにかなりそうだと思いますが」
「要らんよ。私が必要としているのはあんな出来損ないではない。もっと異様で、常識外の存在が欲しいのだ・・・だからこそ王都に帰らずこんな辺鄙な場所まで来たのだぞ?」

 龍の咆哮がつんざめく。抗する気力を削がんとばかりに氷の柱が宙を裂き、宛ら蚤のように傀儡が隙をついて襲っていく。空と大地、両方からの反撃を受けて、堪らず龍はのけ反って苦痛の息を漏らした。翼にも被弾したようであり、片方の翼はもはや一本の骨を残して元の姿を保っていなかった。あれでは飛躍する事も困難であろう。

「そろそろ締めに入ろうか。龍を正門に追い込め。魚を追い込むようにな」
「はっ」

 マティウスは命を下し、つかつかと宮廷の正門へと向かっていった。残された傀儡は龍の背中を無表情に睨み、主と同じようにつかつかと歩いていく。
 反撃の魔術に晒されていた龍は気力を振り絞らんかのように爪を振るい、獰猛に吼えたてて見せた。しかし相手は感情も魂もない、死してなお動く人形達。機械的なまでに攻撃の範囲を見極めるとそれを避けて
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