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舞台神聖祝典劇パルジファル
第二幕その四

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第二幕その四

「何なのだ」
「貴方自分がわからないの?」
「若しかして」
「僕は何だ」
 やはりこうした返答であった。
「何だというのだ?」
「呆れた。自分で自分がわからないなんて」
「馬鹿じゃないかしら」
「全く」
 女達はその彼を取り囲みながらそれぞれ呆れた顔で言った。
「自分のことは自分が一番わかっているのではなくて?」
「それでわからないなんて」
「筋が通らないわよ」
「僕は」
 また言う彼であった。
「何なのだ?」
「何なのかじゃなくて」
「貴方は何なの?」
「私達にとって」
「何なのとはどういうことなんだ?」
 若者には全くわからない話だった。
「それは」
「貴方わからないの?」
「そういうことが」
「何もかも」
「わからない」
 実際に何もわからなかった。
「僕には何も」
「駄目だわ、これででは」
「そうね。この人何もわからない」
「愚か者ね」
「完全にね」
「僕は愚か者」
 そう言われてあることを思い出したのだった。
「あの城でも言われた」
「ねえ貴方」
「そもそも誰なの?」
「一体誰なの?」
「わからない」
 ここでも同じ返答だった。
「僕は誰なんだ」
「よくこんな人がこの中に入ってこられたわね」
「幾ら何でも何もわからない人が」
「全く」
 女達もこう言うしかなかった。
「そもそも誰なのか」
「それさえもわからない」
「それにしても」
 しかしここで彼はふと言った。
「はじめてだ」
「はじめてって?」
「何が?」
「どういうことなの?」
「こんなことははじめてだ」
 こう言うのである。
「こんな奇麗な連中を見たことは」
「私達みたいね」
「そうね」
「それはわかるわ」
 彼等もわかることではあった。
「まあ私達はね」
「こうしてクリングゾル様にお仕えして」
「楽しむのが仕事だからね」
「そうよね」
「それでだけれど」
 ここで女達は若者に対して問うた。
「貴方は別に私達をやっつけに来たのじゃないのね」
「それは違うのね」
「そうなのね」
「僕はもう勝手に何かを斬ったり射たりはしない」
 グルネマンツの言葉を愚直に聞いてのことなのだ。
「それはもう」
「それならいいけれど」
「それなら一体」
「何をするの?」
「僕は君達にとって何なんだ?」
 これはわからなくて当然だった。

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