第一部
第四章 〜魏郡太守篇〜
四十三 〜棄民〜
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生きろって言うんだ?」
女子の叫びは、切実だ。
「お前ら官吏は、あたし達全員に死ねというつもりなのかよ!」
「そのような事は言わぬ。……だが、お前は一つ、思い違いをしているようだ」
「何?」
「私は、この渤海郡の官吏ではない。また、郡太守の袁紹とは、何の縁もない」
「…………」
「このお兄さんはですねー。魏郡の太守さんなのですよ」
風の言葉に、女子が驚愕した。
「じ、じゃあ……。アンタがあの、鬼の土方?」
……また、その二つ名か。
「お兄ちゃんは鬼なんかじゃないのだ。とっても優しいのだ」
「そうですよ。歳三さんが太守になられてから、魏郡がどれだけ立ち直った事か。同じ冀州にいるあなたなら、少しはご存じではありませんか?」
「……ああ。そうか、アンタが……。済まなかった」
女子は、頭を下げる。
「お前は、この渤海郡の民なのだな?」
「……そうさ」
「ならば、共に参るが良い。私はこれより、袁紹に会いに参るところだ」
「……あたしを、突き出すつもりか?」
「いや。お前のその想い、袁紹にぶつけるが良い。少しは、目が覚めるやも知れぬからな」
女子は、ちらりと仲間達に目を遣る。
「……なら、頼みがある。アイツらを、アンタのところで受け入れて欲しい」
「この渤海郡を出る、と申すか?」
「どのみち、此処にいれば餓死するのを待つだけだ。それなら、生きる希望を持てる場所に、連れて行ってやりたいんだ」
必死に、女子は訴えかける。
「風、愛里。どうか?」
「とりあえず、袁紹さんの出方如何ですが。預かるだけなら問題ないかと」
「民の移動は、禁止されている事ではありませんし。それに、この様子では戸籍管理も杜撰と思われます」
「……よし。鈴々、半数の兵と共に、この者をギョウへ連れて行け。元皓(田豊)に書簡を認める故、ギョウに着いてよりは奴に任せよ」
「いいけど、お兄ちゃんはどうするのだ? 鈴々がいなくて平気か?」
「袁紹の本拠まではあと僅かだ。戻ったら、愛紗に手勢を連れて此方に来るよう、それも書簡を認めよう」
「わかったのだ」
鈴々が去るのを見届け、私達も出発した。
「ところで、名は何と申す」
「……まだ、言えない。アンタの言う事を、全部信じた訳じゃないんでね」
「そうか。ならば、無理には問うまい」
私の答えが意外だったのか、女子は驚いた。
「いいのか、それで?」
「うむ」
「お兄さんは、そういう方ですから。あ、風は程立ですよ」
「わたしは、徐庶と言います」
「……ああ」
名も知らぬ道連れと共に、私は荒涼とした渤海郡を、袁紹の元へと進み始めた。
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