第一部
第四章 〜魏郡太守篇〜
四十三 〜棄民〜
[4/6]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
何もないのだ」
「……はい」
そう、看過するしかないのだ。
如何に袁紹の治政が劣悪であろうと、それを糺す権限はない。
そして、その為に苦しむ庶人にも、手を差し伸べる訳にもいかぬ。
「袁紹さんは、この事をご存じなのでしょうか?」
「知っているなら、普通は何とかしようと思うのだ」
「普通は、ですけどねー。でも、あの袁紹さんですからね」
「……だが、国の礎は民。それを顧みぬ者は、為政者たる資格はない」
「……当たり前の事なのですが、どうしてそれを理解しない方が多いのでしょうか」
沈痛な表情の愛里。
「このような地獄絵図は、永遠には続かぬ。……そう、信じる他あるまい」
私は、手綱を握り締めた。
「止まれ!」
不意に、行く手を遮られた。
不揃いの得物を手にした集団で、人数は五十名余、と言ったところか。
男ばかりではなく、女子も混じっているようだ。
「何用か?」
「此処を通るなら、通行料を置いていけ」
先頭の女子が、叫んだ。
「通行料だと?」
「そうだ。とりあえず、有り金と食糧全てだ」
「お前達、山賊なのか?」
鈴々がそう言いながら、蛇矛を構える。
「山賊ではない!」
「ならば、何故通行料を要求する? 見ての通り、我らは公務中だが?」
「そんな事は関係ない。皇帝だろうが何だろうが、此処を通りたきゃ、通行料をいただくまでだ」
白昼堂々、このような者共が大手を振って歩くとは。
治安など、まるで守られてはおらぬという事か。
「お兄ちゃん。やっちゃっていいか?」
「待て」
単なる山賊や野盗の類にしては、荒んだ空気がない。
それに、風や愛里らに目もくれぬというのは、何とも解せぬ。
私は、馬を下り、連中の前へと出る。
「理由を聞かせよ。何故、問答無用で襲わぬ?」
「手向かいしないならば、無用な殺生をするつもりがない。見たところ、金と食糧がなくとも不自由はなさそうだからな」
「ほう。それは、我らが官吏だからか?」
「そうだ。貴様らは、あたしら民から搾取するだけ搾取し、自分達ばかりがぬくぬくと暮らしている。それを返して貰う、ただそれだけだ」
そう言って、女子は反りの大きな剣を抜いた。
「鈴々、相手をしてやれ。ただし、殺すな」
「合点なのだ!」
「あまり、あたしを舐めない方がいいぞ? おチビちゃん」
「鈴々はチビじゃないのだ! 行くぞ!」
蛇矛を水車のように、ブンブンと振り回す鈴々。
それを見て、女子の顔が引き締まった。
「うりゃりゃりゃりゃりゃっ!」
怒濤のような鈴々の突き。
「くっ! な、なんて速さだ!」
必死の形相で、女子はそれを受け止めている。
「愛里。どう見る?」
「
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ