第十九話 トリップするのは止めてくれ
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務尚書が侯爵夫人に注意を与えたのも無理は無かった。だがこれはあくまで注意だった、排斥では無かった。言ってみれば少し大人しくしろ、そんなところだっただろう。
ところが馬鹿女の方が過剰反応した。アンネローゼが国務尚書を動かした、自分を排斥しようとしていると思い込んだ、典型的な被害妄想だな。だが怒り狂った馬鹿女がアンネローゼを殺してやると騒ぐのを聞いて出入りの宮廷医、グレーザーが怯えた。正確に言えば耐えきれなくなった。何時か自分も捲き込まれるのではないか……、そうなれば一体自分はどうなるのか?
グレーザーは例の侯爵夫人が伯爵夫人を殺そうとしているという手紙を何人かの人物に送った。彼から見て侯爵夫人を止めてくれるだろうと思えた人物にだ。国務尚書、軍務尚書、統帥本部長、宇宙艦隊司令長官、ブラウンシュバイク公、リッテンハイム侯、そして俺。グレーザーはグリンメルスハウゼンには出さなかった。宮廷医にもグリンメルスハウゼンは頼りにならないと見えたらしい。やれやれだ。
事態は急激に動いた、俺が動く暇など全く無かった。警告を無視された国務尚書が誰よりも先に動いたのだ。皇帝の寵を失った寵姫など無用の長物、ひっそりと大人しく過ごすならともかく分をわきまえずに騒ぎ立てるとは何事か! 国務尚書にしてみればベーネミュンデ侯爵夫人は帝国の安泰を揺るがす反逆者に等しかった。その憎悪がもろに侯爵夫人に叩きつけられた。何時まで過去の幻影に縋りつくのか、現実を見ろ、そんな気持ちだっただろう。
直ちに領地に戻りその発展に努めるべし。それが彼女に与えられた皇帝の命令だった。それに先立ちオーディン、或いは周辺星域に有った彼女の荘園が全て取り上げられ代わりに辺境星域に新たに荘園が与えられた。事実上の流刑に等しい。頭を冷やせ、殺されぬだけましだと思え、そんなところだろう。
問題はあの馬鹿女が大人しく辺境に行くかだな。暴発してアンネローゼを襲わなければ良いんだが。ラインハルトが居ないからな、アンネローゼは無防備と言って良い。一応リヒテンラーデ侯には注意しておいた。キスリングにも言っておいたから問題はないと思うが……。全く何で俺がこんな事を心配しなくてはならんのか、馬鹿馬鹿しい。
そろそろ帰るか、資料を作っていたら今夜も九時を過ぎた。原作だとヤンのイゼルローン要塞攻防戦が始まる頃だ。だがこの世界ではアスターテ会戦が起きていない。つまりシトレの立場はそれほど悪くない、となると起きない可能性も有る。先日の戦いも損害だけで言えば帝国と同盟に大きな差が有るわけじゃない。起きるかな、どうも起きないんじゃないかと思うんだが……。
念のため注意喚起だけはしておこう。今じゃなくてもいずれは起きる可能性は有る。資料は出来ている、明日グリンメルスハウゼンに提出しその上で三長官に報告する……。
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