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銀河英雄伝説〜悪夢編
第十九話 トリップするのは止めてくれ
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周知の事実だからな。

「失礼ですが伯爵です、今回の武勲によりグリンメルスハウゼン伯爵になりました」
出来るだけ生真面目に答えたが侯爵夫人は気にした様子を見せなかった。自己中な女は苦手だよ。

「辺境などに居られては不便ではないか。オーディンに呼び戻すのじゃ」
「……」
「あの小僧を捻り潰し、あの女に苦しみを与えてやる」
なるほどな、それなら納得できる。それにしても目がいっちゃってるぞ。宙を見つめながら恍惚としてるんだ。何かを想像してトリップしているようだが何を想像しているのかは知りたくない。薬無しで飛べるとは、とんでもない女だな、いや健康的なのか。

「あの女が猫を被って……、陛下の御心を盗んで、そして私に優越感を誇示しようとしている! ああ、あの女に私が味わった苦しみを十倍にして与えてやりたい……」
ウンザリだった。少しは桜の潔さを見習え。そうすれば惜しんでくれる人間も居る。今のお前はただ厄介で鬱陶しい存在でしかない。

侯爵夫人が俺の方を見て寒気のするような笑みを浮かべた。ギョッとした、まさか俺の考えが分かったとか無いよな。
「どうじゃ、次の出兵であの小僧を連れてゆき戦闘のどさくさに紛れて殺してはくれぬか?」
「!」
何言ってるんだ、この馬鹿。

「そなたの様に武勲を上げてその地位を得た者にとってはあの女の弟というだけで出世している小僧など許し難い存在であろう」
「……」
「どうじゃ、叶えてくれるのなら謝礼はするが」
部屋に瘴気が漂った様な気がした。人が毒を吐くってのはこれか……。

「侯爵夫人、小官は軍人なのです。軍人の仕事は帝国の安寧を守りそれを脅かすものを打ち払う事。ミューゼル少将は味方です。少なくとも今のところは帝国の敵ではない」
俺の言葉に侯爵夫人の顔が変わった。眼が吊り上がり憎悪で燃え上がっている。常軌を逸しているな。

「妾のいう事は聞けぬと言うか! そなたは分からぬのか? 何時かあの女は陛下を惑わしあの小僧を今以上の地位に就けるであろう。そうなっては遅いという事がそなたには分からぬのか! それともあの女の味方をするというのか!」
胸を喘がせ息を切らしながら言い募った。

「味方? 誤解なさらぬように。宮中の諍いを軍に持ち込むなと言っております。先日の軍法会議をお忘れか? 軍に宮中の諍いを持ち込んだが故に多くの将兵が無意味に死にました」
「所詮は卑しい平民ではないか!」
俺も卑しい平民だよ。だがな、本当に卑しいのはお前らの心だろう。その顔を見て見ろ、心の卑しさが滲み出ている。

「貴族も処罰を受けましたよ、侯爵夫人。爵位を削られ領地を没収されました。それが貴族にとってどういう意味を持つか、お分かりでしょう」
「……」
なるほど、そうか。フレーゲルは失脚した。この女は宮中
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