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舞台神聖祝典劇パルジファル
第一幕その十二

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第一幕その十二

「わしもまた歳を取り過ぎた」
「だからだというのですか」
「そうだ。そなたしかいない」
 こう言って王に返した。
「そなたが奉仕して己の罪を購うのだ」
「その罪をですか」
「そうだ。だからこそ聖杯を」
「わかりました」
「それでは」
 先王の言葉を聞いてそのうえで小姓達が動こうとする。しかしであった。
「待て」
「待て?」
「開けないのですか」
「そうだ」
 その通りだと小姓達に言ったのは王だった。
「この世に誰一人として我が苦しみをわかってくれる者はいない」
「だからだと」
「そう仰るのですか」
「この苦しみはそなた達を喜ばせる聖杯によるもの」
 こう言って開けさせようとしない。
「呪いを受けてその務めを果たすべき身の苦しみ」
「ですが」
「それでもです」
「我々は」
「許してくれ」 
 だが王はそれをあくまで拒むのだった。
「この苦悩に比べればどれだけの傷も痛みも何程のことがあろう」
「だからなのですか」
「それは」
「許してくれ」
 また言う王だった。
「今更逃れようもなく父上から受け継いだこの悲痛な役目」
「悲痛なですか」
「王であることが」
「そのことが」
「あらゆる人々の中で無類の罪深い身であり」
 それが己だというのだ。
「至高の宝である聖杯に奉仕し」
「ですが王」
「それでもそれは」
「わかっていてもだ」
 それでもだというのである。
「純粋な者達に向かい聖杯の祝福が舞い降りるように祈らなくてはならない」
「それが王の務めです」
「ですが。なのですね」
「それでも」
「王は」
「辛いのだ」 
 嘆き悲しみ、そのものの言葉だった。
「恵み深い神よ、私の罪への報いなのですね」
 天を見上げての言葉だ。
「神の御許へ」
「そこへ」
「行かれたいと」
「そしてなのですか」
「そのうえで」
 騎士や小姓達の言葉も続く。
「今はですか」
「もう」
「神が清められたその御言葉を憧れ深く願う」
 これが彼の言葉だ。
「魂の奥底から救いを仰ぐ懺悔を続け」
「そうして聖杯は」
「今は」
「一筋の光が神聖な器の上にさして」
 王の言葉がさらに出される。
「被いも取れることになろう」
 言いながらだった。その前にある聖杯を収めた銀の箱を見るのだった。
 そのうえでだ。彼はさらに言うのであった。
「そうすると」
「そうすると」
「一体?」
「聖杯に宿る神意が凛然と力強く灼熱するのだ」
 王は憂いの中でさらに続ける。
「幸豊かな享受の苦痛におののきこの上なく神聖な血の気が」
「ですが王よ」
「それは」
「わしの心臓の中に流れ込んで来る思いは」
 さらに言っていく。

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