第一幕その十
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第一幕その十
「誰なんだ」
「御前の母」
クンドリーは一言で述べた。
「御前は母上のところから出たが彼女は御前のことを心配し悲しんでいる」
「母さんが」
「そう。そして」
「そして?」
「母は死んだ」
こう若者に告げた。
「もういない」
「いないのか」
「そう、私は見た」
クンドリーは若者に対して話していく。
「彼女が息を引き取るところを」
「母さんが」
「そして私に御前を頼むと言ってきたのだ」
「そんな、母さんが」
「落ち着くのだ」
グルネマンツは話を聞き終えて肩を落とした若者の傍に来た。そうしてそのうえで彼に対して優しく言うのであった。
「今は」
「母さん・・・・・・」
若者は涙を落としそうな顔になっていた。
「そんな。僕は」
「悲しみはわかるが」
グルネマンツは彼を慰める。クンドリーはその間に傍の泉に向かい角杯の中に水を汲んできてそのうえで若者に差し出したのだった。その前に彼の頭にその水を少しかけた。
「水を」
「それはだ」
グルネマンツはまた彼に語った。
「聖杯の恵みの方式だ」
「聖杯?」
「悪を報いるには善を以て行う」
グルネマンツは語った。
「そうしてこそ悪は清められる」
「私は」
だがクンドリーはそれを聞いて言うのだった。
「そんなことは決して」
「しないというのか」
「もう休みたい」
そしてこうも言うのであった。
「今は」
「ではどうするというのだ?」
「またここで」
グルネマンツの言葉に応えながらであった。そのうえで再び身体を仰向けに寝かせてであった。そのうえでゆっくりと眠りに入るのであった。
ここでまた王の寝輿が来た。騎士達や小姓達も一緒だ。そしてそのうえで若者に対して言うのであった。
「王が城に戻られる」
「城に?」
「そう、城に」
戻るというのである。
「日も高く昇った」
「日も」
「御前を連れて行くところがある」
「それは何処なんだ?」
「聖餐の席だ」
そこにだというのだ。
「御前にその食べ物や飲み物を恵んで下さるだろう」
「聖杯?さっきも話に出たが」
「それは言うことはできない」
このことは答えようとしない若者だった。
「それはだ」
「答えない」
「そう、答えない」
また言う彼だった。
「しかしだ」
「しかし?」
「御前の身が聖杯に仕えるように選ばれているのなら」
「その場合は?」
「聖杯も御前の傍を離れない」
「そうなのか」
それを聞いてもであった。若者には実感の沸かないことであった。
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