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戦場のヴァルキュリア 第二次ガリア戦役黙秘録
第1部 甦る英雄の影
第2章 緑の迷宮
出会い
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をして立ち去ろうとするが――

「ぐむぉっ!?」

 先んじて放たれた拳が顔面に炸裂し、大きく吹き飛ばされる。隊員たちは驚きのあまり、何が起きたのか理解できず呆気に取られるだけだ。殴った張本人のアンリは、つい先程の柔和な顔から一辺、能面じみた無感情な顔で士官を眺めている。そのままの表情で冷淡に告げた。

「本人の目の前で詰る度胸は認めるが、部下に手を出したことは見逃さない。次は骨を折られるつもりでいろ……私は少将の具合を見てくる」

 普段の平静な様子に戻ったアンリは、隊員たちに一言伝えると、足早にラウンジを出て士官室の方へと立ち去った。






「おおう、来なすったか。まぁ座って座って」

 出来上がった演技を止めた少将の言われるがままにアンリはソファへ腰かける。周囲に散乱した空き瓶の数を確め、呆れる。そもそも葡萄酒ごときでラムゼイ・クロウが酔うわげがないのだ。娘だからこそ、それを見抜けたのもあるが演技の腕は相変わらずらしい。
 背もたれに身を任せた諜報部司令は何も用意していないが、特務部隊の隊長を歓迎した。『ヴェアヴォルフ』への辞令は通常なら書類(諜報部のトップである目の前の酔っぱらいが作成、コーデリア大公が署名したものだ)があるはずだが、今回は極秘任務なのだろう。素手でクロウはテーブルに足を放り出す。

「お前さん、メルフェアっつー街は知ってるよな?」

「ガリア南部、クローデンの森近郊にある商業都市ですね。何か問題でも?」

 南部ガリアが抱える広大な森林地帯の近郊、ガッセナール城とも近い原生林は今やメルフェアを除き帝国の占領下にある。難攻不落の城塞と厳しい自然が敵を阻み守りを固くしているために、正規軍も手をこまねいているのが現状だ。
 クロウは急に面持ちを険しくし、声を潜める。

「メルフェアの東にある前線基地で反乱が起きやがった。どうも元革命派の連中が暴れたらしいが……俺さんの努力で上層部しか知らねえものの、バレんのは時間の問題ってヤツだ」

「兵士や国民、マスコミにことが露見するより早く、反乱を鎮圧せよ。と?」

「そうだ。おまけに、諜報員の知らせじゃガッセナール城に帝国の機甲師団が集結してやがるみたいでな。参った参った」

「自棄を起こしてどうするんですか。今夜は新月ですから、夜の内にクローデンへ向かいます」

「おう。そうしてくれや」

 スッと立ち上がったアンリは、ふと思い出して扉へ向かおうと踏み出した足を止めて振り返った。

「そこの棚に並んだ酒、後で手空きの諜報員に片付けさせるのでそのつもりで」

「お、おい!? 俺さんから酒を取ったら何も残らねぇぞ!?」

 狼狽えるクロウに「今さら無能です言われて、誰が信じるんですか」と残してラウンジの隊
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