暁 〜小説投稿サイト〜
戦場のヴァルキュリア 第二次ガリア戦役黙秘録
第1部 甦る英雄の影
第2章 緑の迷宮
出会い
[1/4]

[8]前話 前書き [1] 最後
 4月末の某日、『ヴェアヴォルフ』はガリア公国軍宿舎のラウンジにたむろしていた。ラムゼイ・クロウから待機命令が下り休暇が終了したからである。正規軍には複数の派閥があり、先祖は南部の豪商であるニューゲート家を頂点とした海軍閥と軍人一家リデフォール一族が束ねる陸軍閥だ。双方が相容れないことは正規軍の中では常識であるが、近頃はその常識が覆りつつある。ガリア公国の巨魁(実際はものぐさな中年の)ラムゼイ・クロウが率いる諜報部の活躍が大きい。
 事実、マルベリー陥落で戦力の半数を喪失した海軍とガッセナール城攻略の失敗で多数の損失を出した陸軍に替わり諜報部属の部隊が活躍するのは当然である。 しかし見栄だけは恐ろしく立派な陸海軍からすれば甚だ不快であり、出世欲の塊である多くの士官は諜報部をよく思っていない。
 現に、ラウンジで黒服に身を包んだアンリは名も知らぬ陸軍士官との口論に発展しかかっていたからだ。厳密には、アンリを侮辱したことにネレイが怒り士官に反論しただけだが。

「どうせ身内贔屓であげたような戦果のくせに大した言いようだな!? まともな訓練も受けていない素人より少し動けるだけでいい気になるな!!」

「他人を非難する前に上司の無能さをどうにしなさいよ! 食っちゃ寝食っちゃ寝してるだけなら赤ん坊でもやってるわ! 最悪なのはそこにごみ以下の人間のくせにプライドだけはいっちょまえなところね!」

「平民風情が大将を侮辱するか! 身の程を弁えろ女!」

「人間扱いしてやってるだけましよ! 汚ならしい蛆みたいな害虫って言えばいいわけ!?」

「なんだと貴様!?」

 可憐な容姿に反して辛辣なネレイの暴言に士官は激昂し拳を振り上げる。その瞬間、ラウンジの空気が凍り――

「うるせえぞお前さんら。体力あんなら訓練でもしてやがれってんだ」

 ふらふらとホロ酔いで現れたクロウの軽い口調で瞬時に緊迫感が消失する。片手に酒瓶を掴んだ諜報部少将に士官は同行者の下士官に至るまでぎこちない敬礼をし、アンリは呆れた顔で酒瓶を引ったくる。他の『ヴェアヴォルフ』隊員は(フィオネを除き)気だるそうに立ち上がり敬礼をする。

「あ、お前さんそれ俺さんがまだ飲んでんだよバカヤロウ」

「……少将、職務中の飲酒は――」

「やっかましい。俺さんは少将だぞコノヤロウ」

 ため息をついたアンリは一息に酒瓶の中身を飲み干し、制服を着ているときにはまず出さない女性らしい声でクロウを諭した。その様子はダメ親父をたしなめるしっかり娘のように見える。

「ほら、諜報部の宿舎に戻って。そこの方、少し頼まれて下さい」

 『青服』の下士官はあたふたしつたもクロウの肩を担ぎ、一礼してからラウンジを出ていった。あからさまにアンリをねめつける陸軍士官は舌打ち
[8]前話 前書き [1] 最後


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ