第一部
第四章 〜魏郡太守篇〜
四十二 〜偽物〜
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唾を呑んでいた野次馬が、その剣幕に慌てて散っていく。
……取り押さえる前に、怪我人をだしは意味がないな。
そう思った私の眼に、店頭に置かれた袋が目に入る。
「あ、ああっ! 何をなさる!」
慌てて止めに入る奉公人を振り払い、袋を男に投げつけた。
男が振り回す斧に引っかかり、袋が裂け、中身が飛び散る。
「な、何だこれは! め、目がぁ!」
「愛里。今だ」
「は、はい!」
気を取り直した愛里の一撃で、最後の男も崩れ落ちた。
「あ、あああ……」
先ほどの奉公人共は、顔面蒼白になって後ずさりする。
「さて……。商家にこのような無法者を雇い入れるなど、ちと無法が過ぎるな。元皓、この場合の処分は?」
「え? あ、は、はい。狼藉を働いた者は死罪、教唆は鞭打ち百回の上追放……ですね」
その時、店から恰幅の良い男が出てきた。
「なんやなんや。店の軒先で何を騒いではりますのや?」
「あ、旦那さん。実はこの男が、言いがかりをつけてきまして」
「何やて?……あ、あんさんは」
店の主人は、私を指さしながら、震えている。
「貴様が、ここの責任者らしいな。この者が、私を強請たかりと決めつけ、無法を働いてくれたのだがな」
「ほ、ほんまでっか?……あ、あんさん方、な、なんちゅう事してくれるんや!」
そう言いながら、店の主人は、奉公人を殴りつけた。
「な、何するんですか、旦那!」
「ど阿呆! この方はな、この郡の太守様や!」
「え、ええっ? し、しかし、太守様なら、もっと見栄えのするお召し物では?」
「とにかく、あんさんは馘首や! 今すぐ出て行きなはれ!」
そして、ペコペコと頭を下げる。
「申し訳おへん。この者、ギョウに来たばっかなんですわ。太守様にえらいご無礼働いてしもうて」
そんな主人を、私は冷ややかに見据える。
「主人。謝罪は、それだけか?」
「ちゃ、ちゃいまっせ! せや、金子でよろしゅうおまっか? それとも、とびきりのええ女で?」
「…………」
傍らの二人からも、怒りの気配が漂ってきた。
だが、糺すべきはこの態度ではない。
私は、店頭の袋を掴み、中身を手のひらに開けた。
「主人。これは、貴様の商品か?」
「へへ、勿論だす。それ、『石田散薬』言いますねん、打ち身や切り傷に、よう効きまっせ」
その粉をひとつまみ、口に含んだ。
そして、すぐさま吐き出す。
「これが、石田散薬だと?」
「へ、へえ? 商いの許可は得てまっせ? わてら、疚しい事は」
「黙れ! 偽物を売っておいて、よくもぬけぬけと」
私の剣幕に、主人はたじたじとなる。
「そもそも貴様。この製法をどこで学んだ?」
「こ、これはわてが独自に研究したもんで」
私は兼定を、主人の喉元に突きつけた。
「な、何しはりますね
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