十四話 「夢の終わり」
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だけこの霧を抜けるまでは静かなこの空気を纏っていたかった。長い夢の終わりを静かに過ごしたいとそう思った。
「そうですね。この話は後にしましょう」
察してくれたのだろう。それで会話が止まる。
俺は頭を船の縁に預けて体を倒す。真下に映る水面には船が通った波紋が背後へと広がっていた。
その波紋を眺めながら船に揺られていると俺は船酔いになっていないことに気づいた。いや、正確にはなっていないのではなく症状が酷く軽いのだ。倦怠感はあるが吐きそうなあの気持ち悪さは感じられない。
酷く不思議に思い何とはなしに俺はその事を白に言うと僅かな沈黙の後に白は言った。
「精神な重りが無くなったからだと思います」
「重り?」
「トラウマと言い換えても構いません。この間話してくれた昔のことについてです」
『依月』という存在を殺してきたと背負い込んでいたこと。
それが重りだっただと白は言った。
「船のこういった揺れは赤子の揺り篭で例えられる事があります。小刻みな振動の中には気持ちを落ち着かせるものもありますが、あれは胎内にいた時に聴く母体の心臓の鼓動に似ているからだとされます。両親に対する罪悪感。そこに端を発した自身への拒絶が根底にあったんじゃないでしょうか」
赤子を眠らせるとき背中とトントンと叩くことがある。一定の振動が起こす揺れは眠りを促す効果があり、代表的なものを挙げるなら揺り籠やこの世界には無いが電車の振動等がある。
揺れは強すぎてはいけない。体が動く揺れと内蔵が動く揺れがあり、それが一致しなければならない。遊園地の絶叫系などは急な動きのせいで体が先に動き内蔵は取り残されそれが気持ち悪さとして残る。
今回の場合は肉体と精神の揺れのズレ。恐らくだがこれが『それ』なのではないかと白は言う。
「それともう一つ。三途の川が代表的ですが水辺は生と死の境の象徴として扱われることもあります。暗く底が見通せない水面や水に囲まれているという状況が無意識下で心理的な圧迫になっていたのかと」
どこか荒唐無稽なその理屈は確かな根拠などなかった。
知識として俺は知っている。酔いというのは三半規管のバランスが崩れて起きる不調だ。催眠療法など精神的アプローチによる治療もあるがそこまで劇的な効果が見込めるわけでもない。
だがそれでも白が言ったその理由は何故かスルリと俺の中に入り静かな納得を心に落とした。
ああ、きっとそうなのだと。そんな思いが有った。
「きっとそうなのかもな」
目を瞑り体から俺は力を抜く。
視界を閉じた為かエンジンの重低音の振動と船の揺れが一層強く感じられた。揺り篭とは言ったもので次第に意識に靄が掛かり眠気が襲って来る。
ゆらりゆらりと静かに体が揺れる。
生憎今の俺はそれに
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