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弱者の足掻き
十四話 「夢の終わり」
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 終わりなのだと。そう俺は理解した。






 白に事情を話した後、既に用意が終わっていた荷物を持って俺たちは家を出た。
 子供の背丈には少し大きめのバックを一つずつ。それだけの荷物を持って俺たちは街を歩き、友人たちに最後の挨拶をしていった。
 何も伝えていなかったから突然のそれに驚くと思っていたが友人たちはそう驚きはしなかった。聞けば知らぬ内におっさんが前もって出ていくことを告げていたらしい。そして出来るだけその素振りを見せず接してやって欲しいと言われたと。だから覚悟は出来ていたんだと、最初に向かった相手であるカジ少年はそう言って笑った。

 またいつか遊べたらいいな。頑張れよとカジ少年は俺の手を握った。カジ少年の父親は選別だと店で一番高い菓子をくれた。
 ハリマは普段と違い丁寧に、ナツオはまたいつか会うかの如く何時も通りの素っ気無い軽さで別れの言葉をくれた。
 チサトは顔を真っ赤にして涙を流し俺と白の手を掴んだ。呂律の回らない涙声を何とか聞いて返事をして最後に一度名前を呼び合って別れた。
 この国から出るように何て忠告はもう誰にも言わなかった。言う必要も感じなくなっていた。また会えるといいなと、そんな心にもない言葉を返して皆に背を向けて別れた。





 他の知人たちにも別れを告げて俺たちは街を出て船着場へと向かった。
 不思議と濃く出ていた霧は昼前になっても消えず、船から振り返った陸は少しずつ霧に包まれていった。音もなく静かに霞み、まるで霧に閉じ込められるように波の国の姿は俺の視界から消えていった。
 こちらとあちらを劃つ霧で出来た水の境を見ながら、薄らいで消えていった光景を俺は夢の世界のようだと不意に思った。長く続く一面の霧は微睡みで、そこを進むこの船は夢から現へと向かっているようだと。
 覚めない夢はない。死んだ時から、そして生まれた時からずっと見ていた夢から少しずつ起き上がろうとしているのだとそう感じた。

「イツキさん、着いたら後の詳細は決めてあるんですか?」
「細かい所は考えてないが大体としてはここ数日で話した通りだ。時間はあるからまずは生活基盤の充填に重きを置くぞ」
「日課などに関しては今まで通りで場所を探す、ということでいいですよね。手持ちで暫くは良いとして……いくつか案は考えてありますが」
「俺の方も何となくは考えてあるが……」

 視線を船頭の男に向ける。船は小型のエンジンで動かされておりその男は方角を注意しているだけで手持ち無沙汰げだ。暇潰し程度にこちらの話がその耳に届いていることだろう。時間はあるのだ、いらぬ心配を引き起こすような事はせずとも良い。
 それに余計な音を立てたくなかった。小さな振動を伝え押し殺した駆動音を出しているエンジンは仕方がない。だが出来る
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