似ている
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「何故隠すんだ」
「そのままの意味だよ。俺はsaiっていうネット碁にいたやつなんか知らない」
皮肉を込めてこう言うと、案の定緒方は顔を歪めてヒカルを睨んだ。数分前の面影などなく、険しい表情を崩さない。ヒカルはそれに怖気づきもせず、箸をとって食べるのを再開した。
「緒方先生、やっぱり酔ってるんじゃないの?」
テーブルに置かれた酒に目をやり、ヒカルは笑顔を顔に張りつけた。一方緒方の様子は変わらない。
「おい、お前、俺は真剣に話しているんだ。藤原さんが、saiなんだろう」
イラついた様子で緒方が答えを急かす。ヒカルはそれを無視してラーメンを食べ続けた。
「おい進藤」
ヒカルは箸を置いて、面白おかしそうにこう言った。
「佐為がsaiって、第一棋力が違いすぎるよ。それに佐為がsaiだったとして、なんでその力を隠すんだよ」
可能性を否定されたにも関わらず、緒方はヒカルが取り合ってくれたことに安心した。
「それは、普通じゃないからだ。あの歳であの力を保持していることを知られたくないからだろう」
「確かに佐為がsaiだったら俺だって驚くよ。だけどさ、佐為の打ち方はsaiとは重ならないし、佐為がそんな力を隠し持ってるなんてありえないよ」
言い終わった後、ヒカルの脳内にあることが思い浮かんだ。
「しかし、藤原さんの打ち方は変わったぞ。そう、定石が古くなったんだ」
まさにヒカルが考えていたことを当てられて心持ちが不安定になる。グラスに注がれた水を一気に飲んで一息ついた。
「それは俺が秀策の本を貸してやったから・・・。あいつ秀策好きだからどんどん真似ていって」
この店で喫煙は禁止されている。緒方はいつものようにタバコをポケットから出そうとして止めた。もどかしそうに頭を掻く。
「現代に蘇った本因坊秀策。それがsaiだ。何故こんなにも藤原さんとsaiが重なって見えるのかお前にも分かるだろう。打ち方。進藤、お前との繋がり。因島、秀策・・・」
次々と飛ばされる言葉にヒカルは頭が痛くなってとうとう席から立ち上がった。緒方はヒカルを見上げて「おい」と声をかける。
「酔っ払いとは話したくねーよ。代わりに塔矢でも呼べよっ」
「酔っぱら・・・」
「じゃあねっ」
ヒカルはそのまま店を早歩きで出て、行先も分からず先を急いだ。途中でラーメンを完食していなかったことに気づき、さらに気分が沈んだ。
「なんでい・・・」
歩いている間何度も人とぶつかりそうになった。それでも下を向かずにはいられない。佐為が塔矢先生と対局した。これからどうなっていくんだろう。
「佐為・・・」
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