暁 〜小説投稿サイト〜
真・恋姫†無双~現代若人の歩み、佇み~
第二章:空に手を伸ばすこと その五
[8/9]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
。その瞳には不断の決意が浮かんでおり、路地の暗闇に潜んでいるであろう下卑た盗賊一人ですら逃がすまいとする、殺意じみたものすら滲んでいた。

「私は世を変えるわ。不断の武による政治で、この大陸に新しい王朝を築き上げる。そのためにはより多くの烈将が必要よ。血を流す事を厭わぬ勇敢な者達が。そう、あなたも含めてね」
「・・・」
「あなたに、この曹孟徳が作り出す新しい世界を見せてあげましょう。そして襲い掛かる怨敵を滅した後に、あなたを迎え入れましょう。この中原の真の住人としてね。仁之助。私の背中を見守り、そして、守護の刃を掲げなさい」

 神の宣告の如く、堂々として曹操は言った。睥睨する全てを呑み込んでしまうような気を放ち、ただ静かに来るべき乱世を待ち構えている。内心には歳相応の幼さを抱えているだろうにそれをおくびとも出さず、指導者としての威厳を細やかな所作に至るまでありありと見せつける。その様は仁ノ助の胸に深く染み入るものであり、彼は心より感嘆の念を覚える。目の前に立つ少女は『英雄』の名に相応しき御仁であった。
 仁ノ助は彼女の小さくも大きな背中を見ていたが、ふと何かに気付いたか、懐より一本の短刀を取り出した。剣呑な刃の音に曹操がきりっとした眉を顰める。

「・・・何をしているのかしら」
「・・・曹操様、そのまま動かないで下さい。背中についたカナブンを取り除きます」
「えっ!?ちょ、やだっ、取って!!カナブンは駄目なの!早くっ、お願い!!」
「わーお。カリスマが欠片すらぶっ飛ぶのね。曹操様、俺はあなたに付いていきますよ。カナブンを駆除した後でも」
「いいから取りなさいっ!!早くッ!!」

 丸まるように身を竦ませる彼女の姿は中々に御目にかかれないだろう。仁ノ助は言われるがままに短刀の切っ先を曹操の背に近付ける。てくてくと、カナブンが曹操の背を伝って刃の上に乗っかる。未だぞくぞくとしたものを感じる主から刃を遠ざけつつ、仁之助は問う。

「はい、取りましたよー。なんでカナブンが駄目なんですか?」
「・・・昔ね。春蘭や秋蘭と一緒に野原で昼寝をしたことがあったの。それで思いのほか心地よくて、深く寝入ってしまったのよ。護衛の者が付いているというのに無用心だったわ。・・・眠りから醒めたら、もう夜になっていた。さすがに寝すぎたなって思ったら、胸のあたりでもぞもぞと何かが動く感覚がして、それは段々と顎を伝って口元に登って来たの・・・。そして私は見てしまった、黒く、巨大で、二本の触覚を蠢かせる嫌悪感の塊を。
 それ以来、私はカナブンが嫌いなのよ・・・。用兵家の裏をかく奇襲は見事であると思うけれど、あんな気持ち悪い生物なんて認められない。絶対無理。近付いてくるだけで鳥肌が立つわ」
「あの、多分それカナブンじゃなくて、ゴキブリなんじゃ・・・」

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ