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’’助けて……’’
彼女は、おぼろげな意識の中で叫び続けた。
’’助けてください……’’
四肢の自由を奪う鎖は微動だにせぬまま、彼女を縛り付ける。彼女の身体に巻きついた無数の鎖は、何百年経ったのか、朽ち果てている。しかし、広げられた両腕に刻まれている刻印は、鋭い光の鳴動を繰り返していた。
悠久に等しい時間が、すでに彼女の中では過ぎていていた。友と駆け回った大地も、波打ち際で遊んだ海も、そして暖かな風を頬で感じていた空も、彼女には遠い時の記憶でしかない。
だが、それは彼女自身が望んだのだ。世界を、救うために。導くために。人々が、幸せに暮らせるように。世界に下された罰を、彼女のみが一心に受け止めて。今、平和な時を人々が過ごせているのは、彼女が人々の代わりに罰を受けているからだ。
’’助けてください……’’
その叫びは、痛みからではなかった。
偽りの平和が終わりを告げる時がきたのだ。彼女によって護られた、泡よりも脆く、不安定なこの平和が。
だからこそ、彼女は叫び続けた。誰にも届くはずのないと知りながら、誰かに届いて欲しいと祈りながら。
’’助けてください……この世界を……’’
冷たい空気が流れ、外界からは完全に閉ざされた部屋の中で、夢か現実か区別のつかない世界の中、小さな叫びは空気に溶けるように消えて行った。
やたらと天気が良い日だった。暖かい、というには少し暑く、太陽の光がじりじりと地を照りつける。雲一つ無い空を仰げば、鳥が舞っている。
ーー穏やかな日々。代わり映えしない毎日だ。
そんないつもと同じトラペッタの道を、ミストは歩いていた。
「お、おはようさん。今日は何を買いに来たんだい?」
トラペッタの市場にて。雑貨屋の主人が店前で立ち止まったミストに話しかける。
ミストは軽く会釈をしてから目的のものを言った。
「いつものをお願いします」
「え、いいのかい?珍しい西瓜って果実があるんだが・・・・・・」
「へえ・・・お客様は喜びますかねえ・・・・・・」
顎に手をやりしばし思案するミスト。
彼女のいう『お客様』というのが雑貨屋のものではなく、少女のものだと主人は瞬時に判断した。
「もちろん。噛むと甘い果汁が溢れ出てきてなーー」
その西瓜という果実を、両手で持ちながら熱弁する主人。外見だけでいえば、やたらと大きい上に、緑色で縞模様が入っている玉にしか見えなく、食欲が全く湧かない。
まあ、職業柄嘘をついてでも売らなければならないのだろう。彼だって生活がかかっているのだ。それに、赤字を出せば、妻が文字どうり鬼の形相で主人を殴りに
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