第十六話 たまには無力感を感じてくれないかな
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帝国暦 487年 1月 4日 ティアマト星域 旗艦ブリュンヒルト エーリッヒ・ヴァレンシュタイン
旗艦ブリュンヒルトの艦橋は戦闘中とは思えないほどの静かな沈黙に包まれていた。クライスト、ヴァルテンベルクに対して三度に亘って出された後退命令は全て無視された。それ以降は一切ブリュンヒルトからは命令を出していない。抗命罪まで出して命令に従う事を求めても従わないのだ。これ以上は何を言っても無駄だろう。
クライスト、ヴァルテンベルクからも連絡はない。後は連中を処罰するだけだ。司令部要員もそれが分かっている。だから誰も命令違反について話そうとしない。ただ黙って戦況を見ている。第十一艦隊に叩きのめされるクライスト、ヴァルテンベルク艦隊を……。そしてヴァレリーは時々俺の顔色を窺うが敢えて俺は無視している。予想が当たっても全然嬉しくない。
皆冷たい視線で戦況を見ているな。どう見てもあれが味方だとは思っていないだろう。まあ仕方ないな、命令無視で損害だけを出しているんだ。馬鹿共が馬鹿をやっている、そんな気持ちだろう。リップシュタット戦役で貴族達が負けたわけだよ、まともな脳味噌を持っていれば一緒に戦うのが嫌になるだけだ。俺なら絶対に御免だな。
グリンメルスハウゼンも指揮官席で大人しく座っている。爺さん、大丈夫か? 無力感とか感じてるんじゃないか。まあ今回は特別だからあまり気にする必要は無いさ。いや、無力感を感じて軍を退役してくれても全然良いぞ。それならあの馬鹿共も存在価値が有ったと言えるだろう。俺だけじゃない、帝国軍三長官も認めてくれるはずだ。
クライスト、ヴァルテンベルクは同盟軍第十一艦隊の馬鹿踊りに躓きながら一緒に踊っている。そして無意味に叩きのめされている。ホーランドは自信満々だろうな、帝国軍を一方的に叩いているのだから。帝国征服の夢でも見ているかもしれん。そしてビュコックは顔を顰めているだろう。彼にとっては刻一刻と敗北が近づいている気分の筈だ。
馬鹿げているな、自分の能力とは関係ないところで勝敗が決まってしまう。不本意の極みだろう。俺も不本意だ。本当ならもっと楽に勝てた、それなのに……。グリンメルスハウゼンでは統率力に期待が出来ない。ミュッケンベルガーの半分でもいいから総司令官としての威が欲しいよ、そうであればもっと楽が出来るのに……。
愚痴っていてもしょうがないな。そろそろ開戦から四時間か、準備をした方が良いだろう。グリンメルスハウゼンの傍から離れ参謀達の傍に寄った。参謀達が何事と言った表情で俺を見た。
「短距離砲戦の準備をした方が良いかと思うのですが卿らは如何思いますか?」
参謀達が顔を見合わせた。言葉は無い、目で会話している。ややあってアルトリンゲンが答えた。
「宜しいかと思います」
うん、まあ
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