第一部
第四章 〜魏郡太守篇〜
三十九 〜大掃除・弐〜
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事でしょうか? 見て参ります」
愛紗が席を立つと、
「や、やめて下せぇ!」
「うるせぇ! てめぇらなんかに、何がわかる!」
続けて聞こえる、怒声。
「酔っぱらい同士の喧嘩か?」
「全く、無粋な。酒の席を何だと思ってる」
穏やかではないな。
あまり、庶人の事に介入するのは好ましくないが、やむを得まい。
「彩、疾風(徐晃)、参れ。他の者は良い」
「承知」
「はいっ!」
騒ぎの張本人は、兵士数名。
「酒に酔って暴れているようです」
と、愛紗。
「ふむ。何処の兵か?」
「少なくとも、元義勇兵ではありませぬな」
「私の部下でもありません」
「韓馥殿の兵でもないようだ」
となると、元々このギョウにいた兵か。
とにかく、話を聞いてみるとしよう。
「何を騒いでいる」
「あ、アンタは……」
「私が誰かはわかるようだな。では、貴様らが何をしているのか、当然わかっているのであろうな?」
「う、うるせぇ! アンタなんかに、俺の気持ちがわかってたまるか!」
「何! 貴様!」
いきり立つ彩を、手で制した。
「此処は、私に任せよ」
「……は」
私は、兵らと向き合う。
「私の処置が不服か? 立ち去る自由は与えた筈だが」
「何が自由だ! 今、裸一貫で放り出されたらどうなるか、アンタにはわかってるのかよ!」
「生きるための糧や金に事欠く、そう申すか」
「ああ! 俺達兵士は、放逐されたら行く当てなんざねぇんだよ!」
「ならば、残って共に働くしかあるまい?」
「……怖いんだよ」
髭面の兵が、そう呟いた。
「怖い?」
「ああ。アンタは郭図様達を処断した、何の容赦もなく、な」
「当然の処置をしたまでだ。奴らは、それだけの事をされて然るべき罪を犯したのだからな」
「だからって、やり過ぎだろうが! アンタには情けってものがないのか?」
「情けは、かける相手を選ばねばならぬ。特に、郭図は、何の罪もない子女を拐かし、己の欲望のためだけにその一生を棒に振るような真似をした外道だ。情けをかける余地が何処にある?」
「そ、それでもだ。あんなに容赦のないやり方を見せられたら……怖いんだよ!」
それで、酒に逃げたか。
だが、庶人に迷惑をかける理由にはならぬ。
「一つ、尋ねるが。貴様らは何故、兵になったのだ?」
私の言葉に、兵らは顔を見合わせる。
「まさか、理由もなしに兵を務めている訳ではあるまい」
「……俺は、家族を賊に殺されたんだ。だから、自分が強くなりたい……そう思ったんだ」
一人が話し出すと、他の者も続いた。
「頭はからっきし、力だけが俺の取り柄。それで、兵以外に働く場所がなかったのさ」
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