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皇太子殿下はご機嫌ななめ
第7話 「逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ」
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前は優しいな。
 しかしこの男に、そんなものは不要だ。
 ゆさゆさと揺さぶる。
 ほんとは殴ってやりたい。
 ハッと身を硬くして、皇太子が起き上がった。
 周囲をきょろきょろ見回して、

「アンネローゼは」

 と聞いてくる。
 第一声がそれかっ!!
 腹が立ったので、無言のまま、視線だけで奥の部屋を示す。

「そうか」

 皇太子はそれだけ言うと、奥の部屋へと向かった。
 どことなく顔が引き攣っていたように思うが、いったいどうしたというのだ。
 まったく。忙しいのは分かるが、夜、ちゃんと寝ないから、居眠りするんだ。困った奴なんだから。
 ふんっだ。

 ■ノイエ・サンスーシ 宰相府 ジークフリード・キルヒアイス■

 奥の部屋へと向かう皇太子殿下を、ラインハルト様が心配そうに見送った。
 宰相府へと出入りするようになってからというもの、ラインハルト様は、しんぱいするような表情をお見せになる。今も怒っているように見えて、実は心配しているのだ。
 帝国宰相になられてからの皇太子殿下は、私の目から見ても忙しそうだ。
 膨大な問題が皇太子殿下の両肩に、圧し掛かっている。
 どこから手をつけて良いのかすら、分からない。
 アンネローゼ様をむりやり奪った男。
 そう思っていた。
 しかしその男は苦しんでいる。帝国の重圧に、問題に、だ。
 一つの問題に手をつければ、それ以上の問題に直面する。

「俺は宇宙を手に入れたいと思った。だが、宇宙を手に入れるという事は、あの男が直面している問題に、俺も直面するという事なのだな」

 ラインハルト様はそう呟かれていた。

 サイオキシン麻薬。
 現在、皇太子殿下が直面している問題だ。当初は、とある貴族がらみの問題だった。収入よりも明らかに派手な生活をしていた。
 内情は借金で苦しんでいると思われていたが、どうもおかしい。
 高利貸しと呼ばれる商人達が、噂しあっていたそうだ。
 それをオーベルシュタイン大佐が聞きつけ、調べさせた。
 この方は宰相府の事務局長をされていて、皇太子殿下に信頼されている。有能な人物だと思うが、少し近寄りがたい雰囲気がある。見た目ほど嫌な人物ではないと、分かってはいるのだが、少し苦手だ。
 調べた結果、でてきたのが、麻薬密売だった。
 しかも軍も絡んでいる。
 軍内部の検査さえ、ごまかす事ができれば、どこへでも行ける。
 途中で調べられる事もない。
 麻薬を運ぶのに都合が良かったのだろう。
 それでも一隻だけの犯行なら良かったのだ。しかし一個艦隊が絡んでいるとなると、大問題だ。貴族が率いる艦隊。それが麻薬の密売をしていた。
 ブラウンシュヴァイク公爵様の怒号は、今でも耳に残っている。

「あいつらみんな、火あ
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