第十四話 変な髪形をした奴は嫌いだ
[1/6]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
宇宙暦795年 10月 25日 ハイネセン 統合作戦本部 アレックス・キャゼルヌ
「良いのか、こんなところで時間を潰していて」
「準備は殆ど終わっています。後は出撃するだけですからね」
そう言うとヤンは紅茶を一口飲んだ。統合作戦本部のラウンジには疎らに人が入っている。
「今度は勝てるかな」
「さあ、簡単に勝てる相手じゃありませんからね」
苦笑を浮かべながらヤンは答えた。まあそうだな、そんな簡単に勝てる相手じゃない。俺も思わず苦笑した。
前回の戦いで同盟軍は惨敗としか言いようのない敗北を喫した。あれほどの惨めな敗戦は宇宙暦七百五十一年に有ったパランティア星域の会戦以来だろう。あの戦いではジョン・ドリンカー・コープ宇宙艦隊副司令長官が戦死した。そして前回の戦いで同盟軍は宇宙艦隊司令部の中枢を根こそぎ失った。
ロボス司令長官、そして司令長官を支える参謀達、その全てが帝国軍の捕虜になった。その参謀達の中にはいずれは統合作戦本部長にと目されたグリーンヒル中将も含まれている。あの一戦で我々は同盟軍を支えてきた頭脳を瞬時に失ってしまったのだ。
帝国軍の三倍の兵力、そして皇帝フリードリヒ四世不予。その二つが同盟軍を油断させた。同盟軍は帝国軍が撤退すると思い込み周囲に対する注意が散漫になった。そこを帝国軍に突かれた。同盟軍の各艦隊が気付いた時には帝国軍はロボス司令長官率いる本隊を降伏させ撤退した後だった。各艦隊は慌てて追ったが帝国軍を捕捉する事は出来なかった……。
「新司令長官になって初めての出撃だ、勝って欲しいよ」
「それはそうですけど」
「酷いショックだったからな、なんとか払拭して欲しいんだ。本部長もそれを願っている」
「そうですね」
俺もヤンも渋い表情になった。
会戦後、前代未聞の敗北に同盟軍は大混乱に陥った。そして市民からも政治家からもその不甲斐なさ、無様さを非難された。軍の信頼は失墜したと言って良い。シトレ本部長も辞任を覚悟し国防委員会に辞表を提出したがむしろ国防委員会からは本部長の辞任は混乱を助長しかねないと慰留されたほどだ。
トリューニヒト国防委員長とシトレ本部長の関係が親密とは言い難い事を考えれば本来なら有り得ない事と言って良いだろう。しかしシトレ本部長が辞任すれば責任論はトリューニヒト国防委員長にまで飛び火しかねない、本部長に辞められては困ると言うのがトリューニヒト国防委員長の本音だったようだ。
新たな宇宙艦隊司令長官にはアレクサンドル・ビュコック中将が選ばれた。本来なら士官学校を出ていないビュコック中将が選ばれることは無かった。だが同盟市民の軍への信頼を繋ぎとめるには叩き上げの宿将であるビュコック中将を宇宙艦隊司令長官にするのが最善だった。他に選択肢は無かっただろう。
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ