『ピース』
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いて校舎に入る。小便がしたい。トイレに向かうと、そのドアの向こうからチャラついた笑い声が聞こえた。
「法律の網の目をくぐってでも?」そう言って笑っているのだ。僕はグイィと顎を引いてキイィと扉を開けた。ペニスが一番見えにくい位置の便器に向かって小便をする。僕が事を済ませる間、二人は黙っていた。進学校には珍しい、でも一昔前のヤンキーのにおいがする二人。強い高校の本物の前でどういう気持ちになるのだろう? 小便の切れが悪い。弱い尿意、やわな前立腺。パンツを上げた後、残りがしみてくるのがわかった。
「ちょっと臭すぎない?」笑い声が聞こえる。僕がトイレの扉を閉めた後のことだ。思春期の集団生活は難儀である。用を足すにも気持ちを揺らす。いっそ、誰も触れたがらないイカれ野郎になろうかしら。
廊下の向こうからアハアハ笑いながら、「何センチ?」と挨拶が聞こえる。「17センチ!」と答える。あかるい女子である。二人は崩れるような笑顔で喜びがはじけている。数日前、クラスのイジメられっ子が手足を持たれて、「ワッショイ!」と振り回されていたのだけれど、イジメっ子たちはそれに飽き足らず、彼のパンツを下ろした。そのあらわになったペニスが豆粒のように小さい事に驚嘆したクラスメイトは、同情など知らない風で、挨拶代わりに「何センチ?」と口にするようになった。なかなかひどいものである。僕は友人に挨拶を求められたから、「18センチ」と答えておいた。なるべく彼に対する侮蔑を含まないように、軽やかな発音で。でもそれ、黒人並みじゃない。戦々恐々。どんなに賢く見えても「何センチ?」で地に落ちるのであるからさ。
甲高い熱帯の鳥のような笑い声で、喧騒に満ちる教室。はしゃいでいるのはごく一部であるが、彼らは主人公になれるから、ほとんどの人が騒いでいるように見える。愛想笑いのもの、目の死んだ冷笑、「いや、でもさ」と笑いながら正論を言うもの、何にも触れまいとする沈黙の無表情。その喧騒はペニスの話題で熱を帯びた心があふれ出してさまざまな話題に波及している。その話がどれほど卑劣なものでも、この明るさと、はじけるような笑顔の前だと、お咎めなど無意味に感じる僕である。そして僕はその話題からはわりと遠い場所にいる。銀河系で言う太陽系みたいなもんだ。
実際、その話題の元であるイジメられっこは、さすがにイタい存在として話題の中心になることはなかったが、『彼』のふてぶてしさと鈍い性格のせいで同情のまなざしが向けられることはなかった。むしろ人生の終わりを想像していたクラスメイトもいたのじゃないだろうか?
「知り合いが言ってたけど、あれって相性らしいよ」僕の後ろの席で男子が言う。坊主頭の勝島君。野球部で毎日十五キロのママチャリ通学の勝島君。童貞は中学二年で捨てたらしい。その「相性」の話は雨のように降り続けるセックスへの興
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