『ピース』
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しれない。色の白い僕は、夏を嫌悪していたのに。
母さんがこの前、家に来た。口座から結構な大金が引き出されていたから。ガレージの中を見て、ため息を漏らしながら、目をつり上げていたな。僕は男の秘密を感じた。ゆっくり皮がめくれてゆくような秘密。「母さん、男の事知らないんだな」と。
鼻先をなでる風に、自尊心が波立つ。艶をもった肌に照らす光がうれしい。
「誰か、僕に惚れてないだろうか?」
そう思い、振り返ってみたが、クラスの誰も僕のことを見ていなかった。僕の恋心は切なく胸を痛めながらほのかに甘く、ここにはいない誰かの所へ向かって漂う。
「三十秒、マックスでやってみな。マジ、脳みそ白くなるぜ。肉体があること憎むほどだから」
「サンドバッグは押すんじゃなくて、打ち抜くんだよ」
「拳 当たるとき跳ね返されてんじゃん」
町君をガレージに招いた。僕らは喜んでいる。
「臭うね」町君はグローブの臭いを嗅いでいる。僕は顔をゆがめて「青臭いか?」と笑った。
「拳ダコ出来ないんだよね」
「どれ?」と言って町君は僕の拳を見た。「拳ダコ出来る人、下手だって誰か言ってたな」
「俺、支えてるから。撃ちなよ。左ジャブ・右ストレート・左ボディフック・右ストレート・左フック」
「何?」
「適当でいいよ」
僕はサンドバッグを支えながら「セックスパンチ。セックスパンチ」とつぶやいた。「柔らかいほうが好きか」
「女も頭は固いんだぜ」
「そりゃ、発見だな」
その道を極めるのがセックスなら、僕はサンドバッグを殴ることで世界とキスをした。僕の肉体はトンネルを通って世界と通じる。感じることで僕らは強くなれる。感じることが唯一この世に存在する理由なんだ。町君の右ストレートは結構強い。僕は膨らんだり縮んだりしながら明日に向かう。
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