『ピース』
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うに世の中と噛み合う。才能は蜂の巣。世界の天井は天才同士のコネクションで正しい形に整えられ、そこから漏れてくる天からの雨は芸術の味がする。その雨を楽しめる者は幸せを享受し、それを理解できないものはひねくれて世の中の端っこで生きなければならない。混沌の雨の中でもがき苦しむ。なんだか僕の想像する世界はむごいな。
才能とは蜂のように正確に
六角形を造りながら
次の世代を造り上げる
奉仕の心
かわいい
放埓に見えても
何故か入れ物に
収まることが心地よい
かわいい
逃れられぬ本能は
今日も正しく
六角形を刻む
かわいい
『かわいい?』
意識の奥に声があった。かわいいという言葉がリズム良く入ってきたから分らなかった。その『かわいい』は言葉ではなかった。まろやかな意識の種だった。コーヒーをまろやかにするクリームみたいな意識。僕はいつもピリピリしているし、頭の中が混乱していることが多いから、雑念として収めてしまうところだった。
『かわいい』また聴こえた。誰かが言葉を発しているのだ。『ひでぇな』その言葉の後、あきらかに違った声で『同情するなよ』と聴こえた。ドスのきいた声だった。『同情するとうつるぞ』僕は体を半身にして横目で後ろの男を見ていた。ガラスの向こうに若い女の子が通るたび吟味する声がした。声質はしだいに渇いてゆき、しばらくして声は聴こえなくなった。僕は怖いので考えることを止めた。じっとコーヒーを飲み、豆が挽き終わるのを待った。
家につく間、意識を覗かれているような感覚があった。僕はその間ずっと何も考えなかった。今まで考えすぎるほど考えてきたからそれはちょっとした意識革命だった。それは想像が漏れ出ることの恐怖をはらんでいる。「日が当たっている」それだけを考えている。自分の中にあるあやふやな部分を、柔らかくしたまま茫洋と景色を眺める。そこに色は無く、感情は失われている。友人の罪を隠すような心持。右に行こうか左に行こうか迷っている。しかしどちらにも行かない。踏み外すと転がり落ちそうな谷底が見える。
バス停から長い坂道を登ると、家のガレージが開いている。母さんが来ているのだろうか? 家族の中で車に乗るのは母さんしかいない。しかし、そこにあったのは、父さんと一本のサンドバッグだった。僕は感情を失ったまま驚いた。
僕はベッドに寝そべり、あの男は「最悪の先輩」であったのか憶測をめぐらしている。想像はおいしい鉱脈をたどり心の栄養に。
胸の中にうずく、裏社会の異物と出会ったような喜び。
「ねぇ、あの人見たことある?」と友人に言いたい気持ち。脊髄を走るアツい興奮。「超能力で女を吟味する男! アァ!」
瞬間、脳みそが天まで突き抜けるような感覚。大きな吐息とともに、意識が収れんしていくのがわかった。急に
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