『ピース』
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」
ガラス越しの声はなんだかテレパシーみたい。男がステアリングを強く叩いている。ナンバーが『9・11』テロか?
冷たい風を切って走るうち、体が温かいのを知る。父さんの飯のおかげだ。たっぷりと味を吸い込んだ肉じゃが。明日の朝も肉じゃがだ。何故だか未来が見える。意識は鍛えた筋肉のように硬く膨らんで、耳に届く雑な音たちは、心の柔らかいところに届く前に砕けて消える。
僕はあなたを迎えに行く
意識の深い所から
天より突き刺す雷を
迎えに行くように
それが隅々まで満たされて
悲しみをたたえていないように願う♪
『9・11』はポルシェの型番だったっけ?
町君はカウンターを背にじっと前を見ていた。その向かいに座る僕が言う。
「素性知らないほうがいいよね?」
「それじゃ売春だって?」
「そこまでいくの?」
「手、スベスベ?」
「湿ってるほうが吸い付くんじゃない?」
「離れているほうがいい? 前向きがいい?」
「釣鐘っぽい」
「唇と同じ色かな」
「頂上に縄張って、綱渡りしてぇ」
僕の体は首から上が笑っている。体は何かを感じて震えるように緊張している。顔はなんだかとってつけたようなもんだ。僕は自分の鎖骨をなでたり、目を寄せたりして町君に話しかけていた。頬肉が目を細めるように盛り上がっていた。
「なんか買ってきなよ」とうながされて、カウンターに向かった。
外に大きな嬌声が響いた。
「いい女見つけるぞぉぉぉっ!」
そう叫ぶ年のころ同じくしたやんちゃな集団。数人が原チャリにまたがっている。僕の浮ついた想いは米神をピリリと刺激されて吹っ飛んだ。
「ナゲット」と僕は言う。
「ソースはどういたしますか?」
「お飲み物はいかがですか?」
「ありがとうございます」答える彼女は、いつか爆発しそうな火種を、うまいことなだめすかすように笑った。僕の心に触れないように。彼女は外の様子を緊張感のある目でチラリと見た。そこには固い不感症も感じ取れた。下乳は制服を強く押し出している。
窓の外を気にしながら席に戻ると、神妙な顔をした町君が携帯を眺めている。ナゲットをかじりながら「随分大事そうな写真だね」と、僕が言うと携帯を裏返して見せてくれた。女の子が写っている。ブラ姿だ。次の写真を見せてくれたとき、何かが脊髄のどこかしらを突いて、膝がテーブルの下を打った。その女の子、町君の頬にキスをしているんだ。それを見つめながら僕はしばらく呆けていた。頭に「したの?」という言葉が降りてくるまでしばらく時間がかかった。「すごいね」といった後また、しばらく黙った。言葉にならない刺激が、僕の脳みそをチクチク突き刺す。びっくりは言語障害をもたらす。
それから町君は彼女が中学時代の友達であることを教えてくれた。町君が中学時代、秀才であ
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