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至誠一貫
第一部
第四章 〜魏郡太守篇〜
三十七 〜獅子奮迅の嵐〜
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愛紗さん、正解。だから、今強引な手を打てば、最悪旦那はこの魏郡にいられなくなっちゃう、って訳さ」
 嵐の言葉に、皆の表情が曇った。
「調べれば調べる程、根が深い事がわかりまして。正直、頭を抱えたくなりました」
「今の朝廷の縮図みたいなものですからねー。風も稟ちゃんも、今すぐいい知恵は浮かばないのですよ」
 地道に、根気よく政道を糺す。
 それにより、庶人の支持を広げ、同時に豪族の切り崩し工作を行う。
 それが可能ならば、そうすべきだろう。
 ……だが、飢饉と黄巾党の余波はまだまだ残っている。
 手を打つならば、まさに待ったなしの状態である。
「太守様。何か、お考えはありませんか?」
「うん、おいらもそれは気になってたんだ。旦那、さっきから何か思案顔だし」
 二人だけでなく、皆が私を見ていた。
「悠長な事を言ってはおられぬ、と思ってな。とにかく、我らには思いの外、時がない」
 皆、頷く。
「稟、風、それに疾風。首謀格三名についての、不正はどの程度でまとめる事が可能か?」
「はい。三日、いただけますでしょうか?」
「明日にでも、と言いたいところですけど。状況証拠だけでは、言い逃れされてしまいますからねー」
「手の者を密かに各地に走らせております。やはり、三日はいただきたいかと」
「良かろう。元皓、三人を手伝ってくれ。ただし、秘密裏に、だぞ?」
「はい、太守様」
 手段を選んでいる場合ではない。
 この際、荒療治もやむを得まい。

 各々が役目のために散っていき、場には鈴々と彩だけが残った。
 そこに、
「土方殿、宜しいですかな?」
 声の主は、郭図らだった。
 何やら意味ありげな笑みを浮かべ、立っている。
「何用か?」
「実は、落款をいただきたいのですが」
「落款だと?」
「はいはい。まずは、こちらへ」
 明らかに、何かを企んでいるが、拒む理由もない。
 黙って頷くと、連中に続いた。
「お兄ちゃん、鈴々も行くのだ」
「では、私も参ろう」

 城内を少し歩かされ、文官の溜まり部屋らしき場所に着いた。
 その奥に、竹簡が堆く積まれている。
 それも、尋常な量ではない。
「あれ全て、太守の落款が必要なのです。それも、急ぎですが」
「……何故、そこまで溜め込んだ?」
 咎めたつもりだが、古狸共は平然としたもの。
「私共も、好きでこのようにした訳ではございませんがな」
「然様。太守殿が戦死され、後任の方も定まらず」
「代理すら立てられぬ有様でしたからな。必然の事ですな」
 深刻ぶっているが、その眼は嫌らしく光っている。
「……ならば。私が着任し、既に一週間が過ぎている。それまで、何故報告がなかったのだ?」
「黒山賊の事がありましたからな」
「土方殿がご多忙故、気を遣ったのです
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