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銀河英雄伝説〜悪夢編
第十三話 馬鹿な科学者だったんです
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「ええ、そうです。ですがあの時は補給状況の査察でイゼルローン要塞に居たのですよ。そして補給物資の状況をもっともよく知る士官として作戦会議に参加しクライスト、ヴァルテンベルク両大将に反乱軍が並行追撃作戦を行う危険性が有ると進言したのです」
「まさか……」
フィッツシモンズ少佐と顔を見合わせた。少佐は驚愕を顔に浮かべている。私も同様だろう。

「本当です、しかし受け入れられなかった。実戦経験の無い後方支援の若い中尉の意見等誰もが無視しました。あそこで行われたのは当てこすりと嫌味、皮肉の応酬です。それが彼らの作戦会議でした。呆れましたよ、あまりの馬鹿馬鹿しさに。最前線で戦うという事の意味が分かっているのかと疑問に思いました。そしてあの事件が起きた」
「味方殺し……」
少佐が呟くとヴァレンシュタインが“そうです”と頷いた。

「全てが終わった後、クライスト、ヴァルテンベルク両大将は味方殺しは不可抗力だったという戦闘詳報を統帥本部に出しました。彼らが怖れたのは事前に並行追撃作戦の危険性が指摘されたという事、それを無視したため惨劇が起きたという事が中央に伝わる事です。軍上層部に知られたならとんでもない事になる。幸いあの戦いではオーディンからの援軍は有りませんでした。二人とも揉み消す事は難しくないと考えたのでしょう」
ヴァレンシュタインがまた冷笑を浮かべた。

「しかし卿が居るだろう」
ヴァレンシュタインが声を上げて笑い出した。
「今の私じゃありません、無名の兵站統括部の新米士官ですよ。しかもまだ十八歳、子供です。誰も相手にしない、そう思ったとしてもおかしくは有りません」
「なるほど」
まして実戦経験が無いとなれば猶更だろう。笑い声が止んだ、また水を飲んでいる。

「あの二人から戦闘詳報を受け取った統帥本部は当然ですが内容を確認したと思います。味方殺しが起きている、日頃不和にもかかわらず要塞司令部、駐留艦隊司令部は不可抗力を主張している。戦闘詳報は信用して良い、そう判断したのだと思います」
つまりあの二人は軍上層部を欺いたのだ。その事が露見したという事か。いやそれだけでは無いな、他に何かが有る。そうでなければ内乱という言葉をミュラーが口にする筈が無い。

「それで、卿は如何したのだ?」
「兵站統括部から補給物資の確認、要塞防壁の破損状況、修理状況、戦闘詳報を報告しろとの命令が来ました。ただ兵站統括部の主目的は補給物資と要塞防壁だったようです、戦闘詳報はおまけですね」
「報告したのだな」
肩を竦める仕草をした。

「ええ、戦闘詳報には並行追撃作戦のことを書きました。危険性を指摘した事、無視された事。そして味方殺しが起きた事。今後のイゼルローン要塞防衛に関しては並行追撃作戦の事を常に考慮する必要があると記述しました。
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