第一部
第四章 〜魏郡太守篇〜
三十五 〜采配を振るう者〜
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際、賊軍からとても恐れられたと聞いています。そうですね?」
「そうだ。悔い改めた者は赦したが、そうでない者や所業が残虐非道な者には容赦しなかった」
「それに、連戦連勝という事もあります。そんな軍が自分達に向かっていると聞けば、どうすると思いますか?」
愛紗は少し考えてから、
「浮き足立つだろうな。少なくとも、警戒はするだろう」
「そうです。幸い、袁紹軍も向かっていますから、数については此方が多い、と思わせる事も可能です。そうですね、七万と号しましょうか」
数を多く見せるのは、心理戦の常道である。
「なるほど。だが、賊軍が先に韓馥軍を撃破してしまう、その可能性だってあるぞ?」
「無論です。……ですが、それは困難でしょう」
「何故、そう断言できる?」
愛紗が疑問を呈すると、田豊は微笑んだ。
「韓馥軍には、張コウ将軍と、沮授がいますから」
「張コウ殿はわかるが。沮授とは何者だ?」
「そうですね、韓馥軍の軍師兼司令官、と言ったところでしょうか。歳は僕と同じですが、才は太鼓判を押せますよ」
と、黙っていた鈴々が、口を挟んだ。
「でも、それなら鈴々達が助けに行く必要があるのか? 田豊の言い方だと、何だか大丈夫に聞こえるのだ」
同感だ、と言わんばかりに皆が頷く。
「……いえ。十分な備えがあって、かつ……」
「どうしたのだ?」
言い淀む田豊。
「……いえ、何でもありません。ただ、我々の救援なしには、黒山賊を支えきれない事だけは確かです」
「うー、よくわからないのだ」
「鈴々、後で説明を聞けば良いではないか。田豊、噂の流布だけが策ではないのだろう?」
愛紗の言葉に、田豊は表情を引き締める。
「勿論です。関羽様、騎兵二千を率いて黒山賊の背後に回り、撹乱を謀って下さい」
「撹乱か? 向かってきた賊はどうする?」
「軽く一当てしたら、引いて下さい。追ってきたら引き、引いたら追う。この繰り返しです」
「わかった」
「それから、張飛様。歩兵四千をお任せします。合図と共に、敵中突破をお願いします」
「突撃して粉砕、ではないのか?」
「いえ、それには兵数が心許ないですから。そのまま、韓馥軍と合流し、沮授に書簡を渡して下さい。書簡は、すぐに認めます」
「了解なのだ」
「そして、太守様。偽兵の計を用いますので、合図と共に、一斉に旗を掲げて下さい」
「うむ。お前はどうする?」
「太守様と共に。私は、軍師ですから」
そう言い切る田豊の言葉には、自信が漂い始めていた。
「では、ご主人様。行って参ります」
「お兄ちゃん、鈴々に任せるのだ」
二人を、田豊と共に見送る。
……ふと、田豊の肩が震えているのに気付いた。
「怖いか?」
「……はい。僕の策に、大勢の人の命がかかっていると思うと……。申し訳
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