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至誠一貫
第一部
第四章 〜魏郡太守篇〜
三十五 〜采配を振るう者〜
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「そう見えるか?」
「うん。お兄ちゃん、視線が少しだけ、泳いでいたのだ」
 ふむ、鈴々は勘が良いから、気付かれてしまったか。
 ……まだまだ、私も未熟だな。
「太守様。袁紹軍の展開が速い、それを気にされておいでですか?」
 そのやりとりを見て、田豊がそう言った。
「察しがいいな、その通りだ。袁紹殿は、勃海郡の太守。赴任までの日数や出陣の準備を考えると、何とも解せぬ話だとは思わんか?」
 私の言葉に、田豊は考え込む。
「なるほど。進軍の向きからして、恐らくは同じく救援に赴かれるのでしょうが。詳細は確認する必要がありそうですね」
「それは、後回しで良い。まずは、韓馥殿の支援が第一だ」
「はい」
 私は頷き返す。
「太守様。少し、周囲の地形を見ておきたいのですが」
「構わん。好きにするがいい」
「ありがとうございます、では」
 田豊は軽く頭を下げ、騎乗のまま駆けていった。
「お兄ちゃん、一つ、聞いていいか?」
「何だ?」
「今回は、稟も風もいないのだ。大丈夫なのか?」
「軍師の事か?」
「そうなのだ。お兄ちゃんが考える事だから、平気だと思うけど。……でも、ちょっぴり心配なのだ」
 無理もない、か。
 田豊の人となりを確かめ、私なりには問題ないと言う想いはある。
 ……だが、何と言っても、今の田豊は無名。
 稟と風は実績で信頼を勝ち得ているが、同じものを望むのは酷と言うもの。
 口には出さぬが、前衛で指揮を執っている愛紗も、内心では鈴々と同じ事を考えているやも知れぬな。
 ……ちと、一芝居打つとするか。

「申し上げます! 黒山賊が、韓馥軍と交戦状態に入ったとの事!」
 合流を急ぐ我が軍に入った知らせは、吉報ではなかった。
「そうか。ご苦労、新しい報告が届き次第、また知らせよ」
「はっ!」
 伝令の兵を返し、田豊に目を向ける。
「さて、如何すれば良いか?」
「……は、はい」
 愛紗と鈴々、主だった兵は、じっと田豊の言葉を待っている。
「そうだ。お前に、これを預ける」
 兼定を鞘ごと、田豊に渡した。
「た、太守様? これは……」
「指揮はお前が執れ。それは、その証だ」
「…………」
「皆に申し渡す。此度は、田豊が全軍に指示を出す。従わぬ者は、軍規違反とみなし、斬り捨てる。然様、心得よ」
「……え、ええと……」
 固まったままの田豊に、兼定を握らせた。
「如何致した。事態は一刻を争うのだぞ!」
「は、はいっ!」
 弾かれたように、田豊は居住まいを正す。
「で、では。ゴホン」
 咳払いを一つ。
 うむ、もう戸惑いの色はないな。
「まず、このままの行軍では、韓馥軍との合流は不可能です。……そこで、まず噂を流します」
「噂?」
「そうです、関羽様。太守様の軍は、黄巾党征伐の
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